地域着眼の「官民連携」援助 ODA実感が各地に浸透するか|羅針盤 主幹 荒木光弥

援助としての中小企業技術

関東が異常な大雪に襲われた翌日(2月15日)、三重県津市で「中小企業海外展開支援セミナー」が外務副大臣、三重県知事も出席して、外務省、国際協力機構(JICA)中部の主催、三重県、日本貿易振興機構(ジェトロ)三重の共催、三重県商工会議所、三重県商工会、中小企業団体中央会の後援で開催された。

このように、日本でもようやく「官民連携」の開発途上国援助事業が制度化され、全国規模で本格的な運用が始まっている。欧米では、すでに2000年初めから実施されているので、決して早いテンポではない。

わが国の運用機関はJICA。その諸制度は(1)海外投融資、(2)PPP(官民連携)のインフラ調査、(3)BOPビジネス連携促進調査、さらに(4)中小企業海外展開支援事業が昨年から始まった。筆者は、まだ試行錯誤の状態かもしれないが、官民連携事業の希望の星として制度化された「中小企業海外展開支援」を注視したい。

最初に、制度を具体的に説明しよう。一つは、1件につき約3,000万円の予算枠組みをもつ「案件化調査」。開発途上国の開発に資することを目的に、日本の中小企業などの製品・技術の活用や技術指導などを盛り込んだ計画を立案して、相手国政府機関に売り込みながら、事業の実現可能性を調査する。

二つは、1件につき1億円を投入する「民間提案型普及・実証事業」。開発途上国の開発に寄与する目的で、わが国中小企業の製品・技術などを現地で広めるために当該国で試用実証を行い、その導入に向けた事業実施計画や実施方法を検討するもの。そのために、一定規模の資機材調査・据え付けや継続的な現地活動を盛り込んで現地での普及・実証事業を行う。つまり、最初の「案件化調査」をより具体化した段階へ進める制度である。

三つは、1件につき1,000万円を投入する「中小企業連携促進基礎調査」。アジア、アフリカなどの開発途上国への企業進出を検討中の中小企業からの提案に基づき、当該地での事業展開に関する情報収集をはじめ事業計画立案を支援するもの。ケースによっては政府開発援助(ODA)事業との連携を検討する。

これは、ビジネス面では「案件化調査」、「民間提案型普及・実証事業」がうまく進展して、現地進出を図るという最終目標へ到達したスキームだと言える。

ほかに、中小企業も挑戦できる、1件につき5,000万円の「BOPビジネス連携促進調査」もあるが、これは技術力に加えてネットワークと資金力のある大企業が有利だとされている。

広まるかODAの実感

筆者がなぜ、この制度設計に注目しているかと言えば、この制度を通して、日本の産業を長年にわたって底支えしてきた日本各地域の優れた中小企業の技術、開発ノウハウが開発途上国の国造りのために海外展開することで、将来への生存圏を得ると同時に、新たな技術開発を促進し、発展していくことに役立つと考えているからである。まさに、援助のWin-Win(互恵)が成立している。

次はさらなる注目すべき視点を指摘してみたい。それは、この制度を通じて、日本各地域の多くの中小企業群、さらに地域の公共行政部門から政治家に至るまで、初めて具体的な形のODA事業に接し、ODAがより具体的な形で自分たちにどう関係するかを体験することでODAを実感し、その意味するところを体得して、ODAを身近に感じるようになったことではなかろうか。

弊社は、一昨年から外務省に頼まれて、中小企業の海外展開を側面から助ける開発コンサルタントとのマッチングをお手伝いしてきたが、自分の選挙区の地域企業を支援する政治家が中小企業海外展開事業を高く評価する声を寄せている。

考えてみると、私たちはこれまで何十年にわたってODAの意義や意味を、極端に言うと、主に都市圏といった地域で、限られた人々に伝えてきた。日本の各地域に広報しなかったわけではない。問題は、援助の意義や意味をケーススタディーしてみても、常にその現場は開発途上国であり、人々に実感を伴って伝わらなかった感がある。しかし、今回のように地域企業の技術がビジネス・チャンスを伴うようになると、ODAへの実感が地域に伝わり、ODA理解が一気に深まる可能性がある。

筆者は、すでに何十年前から、具体的な体験が伴わないとODAの意義や意味は広く地域の人々に伝わらない、と主張してきた。例えば、JICAの研修事業も自ら研修所を建設して、自己完結型で各地の研修事業を続けていては地域の理解は得られない。だから、自己完結型でなく、地域完結型にして、研修員を地域のホテルや旅館あるいは民宿に宿泊させて、現実にODA予算(カネ)を地域に落とし、地域でODAを実感させてはどうか、と唱えたことがある。

新しい援助モデル

今や、開発途上国援助は世界的に見てWin-Winの時代に入っている。援助する先進国が経済的に疲弊し、援助する力を落としている。このままでは長続きしない。継続が援助効果を高める道である。その意味で、ODAによる中小企業海外展開支援は、仮に達成率が当初低くても、日本の新しい援助モデルとして大切に育てるべきである。

これを契機に、日本の開発途上国への技術協力も、日本の各地に潜在化している多くの企業技術を活用した協力体系をつくるよう努力すべきであろう。

米国では2001年から多くの民間と「世界開発同盟」(グローバル・デベロップメント・アライアランス)を結んで、開発途上国の開発課題に寄与している。例えば、2001年から07年までの連携実績によると、米国国際開発庁(USAID)の資金を呼び水にして、民間から3倍以上の資金動員を実現している。その数は約1,800件で、うち500件が民間との同盟で実現したものである。

とにかく、日本も後発ながら、これまでにない画期的な民間技術活用型の開発援助を開始した。これからは彼らとの連携で、新時代の援助革新へ向かってもらいたい。それが国民の理解と支持を得る最短距離である。

※国際開発ジャーナル2014年4月号掲載

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