欧米の幅広い領域
「90%:10%」。これは周知のことと思うが、世界の資金移動を示す比率である。90%が民間資金、10%が公的資金。10%には世界銀行などの開発資金、先進各国の援助資金などが含まれている。
これら資金の多くは、新興国はじめ多くの開発途上国の経済・社会インフラ部門に投入されるものと予想されている。アジアの将来に向けてのインフラ需要だけでも70兆ドルを超えると見られる。2000年から始まった欧米諸国の官民連携(PPP)という援助思想も、膨大な開発途上国の資金需要に応じていくために、民間資金との連携を余儀なくされたからだと言われる。以来、ヨーロッパ(英仏独)でも米国でも、民間資金を政府ベースの開発援助計画と連携させるようになった。
たとえば、英国ではかつてTrade Promotion Program(貿易促進計画)があった。英国は英連邦に加盟する開発途上国を対象に英国はじめ欧州連合(EU)への輸出促進を目的に輸出製品開発も支援している。米国もカリブ海諸国を対象に、米国市場への輸出促進を計画し、輸出製品の開発から米国への輸入を請負う貿易会社の創設までも援助している。
古い話だが、筆者は1987年3月に米国国務省に属する米国国際開発庁(USAID)と連携している10社ほどの援助系コンサルティング企業を取材したことがある。その中の一社が先に述べたカリブ諸国から米国への輸出促進援助を担当していた。欧米では開発コンサルタントの活躍がいかに幅広いかを知らされる一幕である。
もう一つのUSAID下の援助系コンサルティング企業は、ブラジルでの市場性の低い熱帯特有の新しい薬品開発計画に関わっており、計画から試験段階までのプロセスを支援していた。このように、欧米のコンサルティング企業の専門領域は多岐にわたっており、その役割も大きく、社会的地位も高い。
親ガメの背中の子ガメ
ところが、明治以来の日本のコンサルタントの歴史をたどって見ると、中央政府であれ地方政府であれ、公共事業の計画立案から設計まですべて役所中心に進められてきた。まさに、官尊民卑的であったと言える。そうした社会的風潮の中では、一般の民間企業を含む産業界全体が「官に右へ習え」で、官側の規範に沿っていたと言える。だから、コンサルティング業界も官の計画立案・設計の下請け的存在で、せいぜい図面書きなどの下請けに甘んじてきた。
こうした歴史の中で、国内のコンサルティング企業が国内の官庁下請けから独立して一気に海外に進出し、国際的な開発コンサルティング企業に飛躍できたのは、わが国の東南アジアへの戦後賠償からであったと言える。そして、その後の政府開発援助(ODA)の発展で多くの開発コンサルティング企業が国際経験を積み、社会的な存在感を高められるようになった。
しかし、今年3月の国際建設技術協会の調査(28社対象)によると、2015年ベースで見た場合、国内事業量の約7,000億円に対し、海外は1,000億円を超えたものの、その収益率は国内の8.26%に対し、海外0.18%と極端に低い。ところが、海外受注と言っても、16年度の場合、海外受注総額1,377億円のうち、ODAベースの円借款を含む国際協力機構(JICA)案件の受注比率は全体の87.4%を占めており、ODA以外の受注比率はなんと6.5%と驚くべき低さである。
こうした状況から見る限り、日本の開発コンサルティング企業は一応、海外進出できたとは言え、国内と同じく未だ政府依存度の高い状態にあると言える。これでは「親ガメ(ODA)がひっくり返ると、背中の子ガメもひっくり返る」ことになりかねない。親ガメの背中にいつまでも乗っていては国際競争に打ち勝つ国際コンサルティング企業への道はほど遠い。こうした現状を打開するためにもODA事業を足場に、国際コンサルティング企業としての競争力を身に付けて国際市場への道を切り開かなければならない。すでに海外志向の強い企業の中には、海外子会社を設立して、そこを中心に幅広い海外受注活動を続けている企業も見うけられる。
一方、その状況にまで達しない企業は、外国人を採用したり、在外事務所ベースで現地人材を確保している。ただ、コンサルティング企業の多くでは、海外受注と言ってもコスト倒れだと言うが、それは高い賃金の日本人が多く関わっているからではなかろうか。国際化とは企業の構成要員までを含めての国際化であって、別な言い方をすると、企業の海外移転、現地化ではなかろうか。
裾野の広い市場
それでは次に、将来の国際コンサルティング・マーケットを考えてみたい。まず、国際的なコンサルティング業の範囲も、今や花形となっているハード系のインフラ系開発コンサルティングにとどまらず、ソフト系開発と言うか、たとえば、日本の経験とノウハウの詰まった都市ゴミの総合解決システムをはじめ、保健医療、看護、教育、新しい農業・食品開発、防災などの分野を想定すると、その裾野は広い。
こういう領域がこれからのODAの市場にもなる可能性が高いと見てよいだろう。しかも、それらは単にODA事業にとどまらず、たとえば、保健医療、老後対策などは社会システムと共に保健医療や看護などの関連産業製品の輸出促進ということで重視される時代が到来する可能性が強い。すでに、病院の海外進出は総合商社のビジネス・ターゲットになっている。
時代と共に、これらのソフトを伴う国際移転をビジネス化する企業グループも出てこよう。その時、コーディネーターとして、開発コンサルティング・グループの役割も大きくなる。コンサルティング業は「頭脳と知恵」を売るビジネスだと言われて久しいが、これからの国際展開ではその能力を十分に発揮できるよう進化してほしいものだ。しかし、こうしたレベルにまで発展するには、なんと言っても知識と知恵の詰まった「人材」の確保と育成が求められる。また、その確保・育成はインターナショナル・レベルで行う必要があろう。
いずれにしろ優れた人材の育成・確保がなければ、国際級のコンサルティング業への道は遠い。JICAの資金ショート事件を契機にコンサルティング業はどう進化すれば生き残れるのかを真剣に考える時代が到来している。
※国際開発ジャーナル2018年7月号掲載
コメント