必要な緊急予算措置を
大規模な資金ショート問題を起こした国際協力機構(JICA)では、問答無用、なりふりかまわず大幅な実行予算のカットを断行し、現場からは内外にわたって悲鳴と不満の声があがっている。恐らく、国内にあっては連携している大学、地方自治体などのJICAへの信用失墜が拡大し、海外にあっては途上国側の失望を買うことになるだろう。特に海外への影響は甚大で、国際的に日本への不信として拡散する恐れがあるので、本論に入る前に、日本の対外的な悪影響を防ぐため、政府に臨時的な特別処置として、緊急予算措置を求めたい。さて、周知のことと思うが、JICAは大規模な資金ショート問題に関する説明責任を果たすべく、5月31日には非公開の事業会社向け説明会を開いた。
また、国民への説明では「JICA運営費交付金予算執行管理問題への対応について」と題して、一番目はJICA運営費交付金事業の予算執行管理強化のための対応として、①「予算執行管理室」の創設、②理事会を通じたガバナンスの強化、③予算執行管理を強化するためのシステムの改善などを挙げている。
二番目は、JICA運営費交付金事業の予算執行管理改善に関する第三者委員会の立ち上げ(組織、経営、会計管理、独法監査、ITシステムなどの専門家構成によるもの)。
三番目は、役員の給与自主返納。理事長、副理事長、全理事(8名)、元上級審議役(1名)の最大3カ月から1カ月の給与10%返納という処置。
以上が公式の対処方針である。筆者はこうした対応について、正直言って「これでよいのか」と疑問視したい。資金ショート問題は、これから先、2020年から22年頃まで4~5年も尾を引くことになるだろう。本当に国民(納税者)に説明責任を果たすには、「どうしてこんな問題が起ったのか」という真相を明白にして、二度とこういう問題が起らないように一部だけの手直しでなく、JICA全体の組織改革、意識改革をこう行うのだという強い決意を表明してほしかった。
徹底した内部改革を
給与の自主返納などでは、目先の責任回避だけで終わり、本当の責任の重さを感じていないのではないかと言われても抗弁できないだろう。印象としては、組織的な隠蔽体質が見え隠れしているように感じる。
外部の専門家による諮問も結構だが、まずは現場型に立ち戻って理事を中心に各部門の中心スタッフも参加し、オールJICA型の職員による「構造改革委員会」を組織して、公開型でまずは内部改革を進めるべきではないだろうか。改革に関する意見があれば、職員の声も反映させるような“開かれた組織改革”が望まれる。
実際の援助では、現場主義を主張しているではないか。もう少し自由にものの言える組織環境へ改革すべきであろう。
さて、今回の問題には、直接的要因と間接的要因があると思う。直接的には、JICA内にあって、予算執行状況を管理する部署と、援助案件をつくりあげる部署との連絡、連携不足が指摘されている。具体的には、企画部が有償、無償案件のすべてを掌握し、刻々と変わる執行状況を正しく管理しなければならない立場にある。しかし、企画部は巨額の円借款プロジェクトに振り回されて、年間600億円レベルの技術協力プロジェクトは金額だけで見ると、円借款プロジェクトのワン・プロジェクトに相当するぐらいのスケール感である。そもそも、一企画部で巨額の有償と手間ひまかかる技術協力、小プロジェクトを扱う無償を一括管理すること自体が組織機能の限界を超えているのではないだろうか。しかも、有償と無償では援助スケールだけでなく中身も異なっているはずだ。それにもかかわらず、一つの企画部ですべてを統轄している。それは限界にきていると言える。一つの考え方として円借款部門と技術協力など無償部門をそれぞれ統轄する部門を設けることも一考であろう。
統合10年目の反省を
現在、国際協力銀行の円借款部門をJICAに統合してから10年になる。表面的には一応、統合成果が上がっているように見えるが、今回の問題は統合が決して円滑に進んでいないことを明示しているように感じる。JICAの全予算規模のなかで80%のシェアを占める円借款は今や資金量の面で技術協力を圧倒している。
それゆえに、組織としてのバランスが崩れて、あちこちに機能の整合性を失わせるキシミが生まれているように見受けられる。円借款は資金的に全体の80%を占めながらも、それに携わる職員数は全体の4分の1ぐらいかもしれないが、技術協力、無償資金協力部門の予算規模は全体の20%程度でも、関係する人数は全体の4分の3と言ってよいくらい多い。援助成果は別にして、援助量的貢献度からみると、円借款が技術協力を上回っている。
しかし、援助案件数は技術協力の方が円借款協力よりはるかに多い。それだけに技術協力は手間ひまがかかる。プロジェクト数も多く、調査案件の範囲も広い。だから、一つのセクションで巨大な金額の円借款調査案件と広範囲の技術協力調査案件を整合性をもってきちんと統轄するには無理がある。
もっと言えば、インフラなどの部門と保健衛生、教育などの部門とは対応の方法も違うはずである。そうした違いを調整し、組織として統一していく、キメの細かいマネジメントが求められているのではなかろうか。
最後に、2013年12月24日の閣議決定(第一次安倍内閣)の「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」によれば、「独立行政法人制度は、行政における企画立案部門と実施部門を分離し、企画立案部門の能力を向上させる一方で、実施部門に法人格を与え、運営裁量を与えることにより、政策実施のパフォーマンスを向上させることを目的とする」とある。
さらに「大臣から与えられた明確なミッションの下で、法人の長のリーダーシップに基づく自主的・戦略的な運営、適切なガバナンスにより、国民に対する説明責任を果たしつつ、法人の政策実施機能の最大化を図る」とある。JICAは独立行政法人として、国民の信託に応えるように常に成果の上がる組織改革に取り組むことを忘れるべきでない。
※国際開発ジャーナル2018年8月号掲載
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