防災無線システム整備で災害時の被害軽減へ
完成形を見据えた調査と連携強化で進める情報共有の重要性
カリブ海北西部にあるジャマイカは、大西洋のハリケーンベルトに位置し、頻繁に甚大な影響を受けている。短時間の豪雨や暴風雨による洪水・土砂災害により、同国GDPの1~2%に相当する経済被害を受けた例もある。
同国政府は国家開発計画の中で「災害対応能力の強化」を重要項目の1つとして位置づけるものの、既存の防災無線通信網の通信容量やカバレッジの不十分さ、設備の老朽化による回線不安定などから、災害発生時の警報伝達の遅延や被害状況の把握・対応の遅れが課題となっていた。本案件では、同国の全国規模での防災デジタル無線通信システムの整備を行い、災害時の情報伝達の迅速・安定化を図り、人的被害の軽減に貢献することを目的とした。
現地調査では、限られた日程で200カ所以上の機材設置場所を回る必要があった。調査を効率的に進めるため、複数のチーム編成で、技術仕様書や据付工事図面に落とし込みやすいフォーマットを用い、調査結果をタイムリーに共有できる体制を構築。実施機関に対し、効率的手法や早期に成果を示すことで信頼を構築し、後の詳細設計・施工監理を円滑に進める基盤とした。
無償資金協力事業では、相手国の協力が不可欠だ。現地で必要な手続きや当該国対応事項を具体的に洗い出し、現地側への明確なインプットと定期的なモニタリングが求められる。そのためには、プロジェクトの完成形を想像することが重要である。
本案件により、災害準備・緊急管理局を中心に防災関連組織間の専用無線ネットワークが整備され、災害状況が迅速に伝わり、救済活動に寄与する。今後は災害脆弱地域にサイレンシステムを導入・拡大し、災害予警報の全国展開が期待されている。
プロジェクトギャラリー

実施機関との集合写真

集合トレーニング

国内15カ所に設置されたサイレンシステム

無線子局
プロジェクト担当者
八千代エンジニヤリング株式会社
海外事業部 CM部門 小林 辰哉さん(こばやし・たつや)
大学で電気工学を専攻し、卒業後八千代エンジニヤリングに入社、有償・無償資金協力事業を中心に従事。これまで担当した分野は電力をはじめ放送、通信、防災、農業、運輸交通、上下水道、廃棄物、大学研究機材、災害復興と地域・国を選ばず幅広く対応してきた。現在はアフリカ地域の農業分野の他、ウクライナの復興支援に注力。
※国際開発ジャーナル2025年9月号掲載