小規模農家による市場調査の「ふつう化」
普及サービスの一環としてのSHEP適用拡大
タンザニアの農業セクターは、GDPの28%を占め、65%の雇用を創出する基幹産業である。一方で、一般の農家が農業を「ビジネス」として捉えるまでには、意識変化の余地が多分にある。本プロジェクトの前身、フェーズ1では、国際協力機構(JICA)が推進する市場志向型農業振興(SHEP)アプローチをタンザニアに導入し、農家自身が市場調査を行うことで、市場ニーズに基づく農業生産のサポートを進めた。結果、対象となる12の地方自治体(県)で園芸生産による所得が約45~59%向上した。
フェーズ2となる本プロジェクトでは、SHEPの効果を実証した上で、SHEPを県の通常普及サービスとして根付かせることに取り組んでいる。同国では、全国184県に6,000人を超える普及員が配置されている。彼らの普及サービスを通じて、農家による市場調査の「ふつう化」が進むこと、より多くの農家が市場のシグナルを適時かつ敏感にキャッチし、ニーズある農業生産を行うことへの支援がフェーズ2の目的である。
主な活動として、①農業省研修所などを通じた普及員へのSHEP研修実施、②各対象県でのSHEP普及計画策定・実施、③政府事業、開発パートナー事業を活用したSHEP普及、④フェーズ2完了後を見据えた政府主導による自律的な普及体制の構築を支援している。
私自身、JICA海外協力隊で県普及員として活動した経験から、タンザニアにおける普及員の重要性と可能性に信を置く。小規模農家が市場情報に基づいてビジネスの判断をし、着実に所得向上に結びつけること。これが普及員を通じて全国に広がることを目指し、地域の発展を願い日々活動に取り組んでいる。
プロジェクトギャラリー

ムフィンディ県の農家グループのトマト栽培

買値の高いジャガイモを見せる市場のバイヤー

農家グループへのSHEP普及計画を作る県職員
プロジェクト担当者
株式会社国際開発センター
経済開発部 次長/主任研究員 志賀 千章さん(しが・ちあき)
大学院卒業後、JICA海外協力隊でタンザニア・バガモヨ県庁の普及員として勤務。帰国後、国際開発センターに入職し、タンザニア地方行政プロジェクト、農業セクター調査などに従事。2019年から本案件のフェーズ1に参団。
※国際開発ジャーナル2025年8月号掲載