JICAの機構改革を考える SDGsと真の国益との谷間で|羅針盤 主幹 荒木光弥

改革のビジョン

謹賀新年。

新年に際し、2020年以降の政府開発援助(ODA)を占う意味で、ODA総本山の国際協力機構(JICA)の機構改革に言及してみたい。

JICAはどういう思想で機構改革を行おうとしているのか判然としないが、基本的な考え方としては、世界が合意した持続可能な開発目標(SDGs)に沿いながら、日本の特意性を発揮できる分野や技術に的を絞って機構改革に取り組むことが本筋であろう。その上で、日本の目指すところ(国益)を改革に反映させる必要がある。以下は筆者の考えの一部である。

(1)世界的視点に立った機構改革の思想は、真の国際貢献としてSDGsの目標2「飢餓をゼロに」に次いで、「保健」「教育」「ジェンダー」「水・衛生」などを上位目標にして、JICAの機構改革の方向性を考えるべきだ。その上で、目標7にもある「エネルギー」をはじめとする経済成長と雇用、インフラ・産業化・イノベーション、持続可能な都市づくり、海洋資源、陸上資源など国益の絡む開発目標をどう組織づくりに反映させるかが大きな課題となろう。

課題部と地域部の問題点

(2)JICA機構改革で求められる大きなポイントを挙げると、援助のソフトと言われる「社会基盤・平和構築部」を筆頭に、「人間開発部」「農村開発部」「産業開発・公共政策部」「地球環境部」などの課題部があり、それらが援助対象地域のアジア、アフリカ、中南米を担当する「地域部」と連携しながら援助を効率的・効果的にどう実施するかが問われていることである。

ところが、社会基盤・平和構築部はまるで寄せ木細工のように援助計画、その調整から都市・地方開発、運輸交通部門に加え、まったくアプローチの異なる「平和構築」「復興支援」「ジェンダー平等」まで無思想を極めている。そもそも「社会基盤構築」と「平和構築」とは目的も手順も違うはずである。

また、人間開発部も「保健」と「教育」が一緒に詰め込まれている。この二つは本来、途上国援助の根幹をなしているにもかかわらず、JICAの中では重視されていない分野というイメージを与えている。新しい機構改革の際は援助の常道に基づいて「教育」と「保健」をそれぞれ独立させて拡充すべきであろう。

さらに、農村開発部も農業開発協力においては伝統的な稲作改善協力にとどまらず、幅広い換金作物、輸出作物へと、開発協力のニーズは広がっている。そして、途上国の農村近代化は国造りの基底をなしている。その意味で途上国へのセクター協力では、農村開発のニーズは高いと言えるだろう。

続く産業開発・公共政策部も、まるで寄せ鍋のように産業政策と公共政策が混在しており、セクションとしての一体感が保たれていない。即席づくりのようなイメージを与えている。

最後の地球環境部だけは、そのまま将来にも通用するセクションである。こう見てくると、課題部の多くが大改革を必要としていることが明らかになってくる。

(3)地域部は、援助の中で一番大切な途上国の開発要請を探知、分析、アプローチするという重要な役割を担っている。この援助の先端部門がしっかりしていないと、被援助国の開発方針、そして開発計画の動向やその情報を見逃すことになりかねない。また、途上国の新しい要請にも機敏に対応できなくなる。

さらに、もっと大切なことは、相手の開発計画当局とのネットワークを形成することであるが、現在の地域部は海外事務所との連携も含めて、その役割を十分発揮しているようには見えない。ただ、任務期間がせいぜい2年程度では、相手との人間関係、人脈形成の達成は難しい。

これをカバーするとしたら、欧米のようにその国に精通する開発コンサルタントを政策的に育て、彼らとの連携による開発計画のニーズ発掘、開発プロジェクト発掘にチャレンジするしかないだろう。そこにはコンプライアンスという難問が待ち構えていることを念頭に、専門領域における相手国との人間関係を深めるという新たな仕掛けづくりが求められる。知恵の勝負だ。

ところで、円借款協力は、これまで国際的なタイド(ヒモ付き援助)批判を避けるために、長い時間をかけてアンタイド化に努めてきた。だから、ナショナル・インタレスト(国益)重視と言われても即座に馴染めないかもしれない。ある時、国際入札が日本に有利になるように、日本の「スペック・イン」を口にするJICA職員を見ていて、国益と国際益の判断の難しさを感じたものだが、JICAはその難問を乗り越えなければならない時代に直面している。

中央官庁との連携不足

(4)外部との連携という点で、一つの問題を提起したい。JICAは2003年の独立行政法人化で、霞が関の中央官庁との実質的な連携や協力関係が非常に弱くなった。特に保健衛生、教育、農業開発、都市開発、産業化、イノベーション、インフラなどは実務官庁との日頃からの交流と協力が必要になる。ただ、インフラ、特に鉄道部門はインドの高速鉄道計画のように、国土交通省ではなく、官邸主導で進められている。官邸はJICAに対して、インフラプロジェクトの発掘能力が弱いといって、JICAにプロジェクト発掘能力を高めるセクションを新設させた。開発調査がすべて短期的国益とも言うべきインフラ輸出に結び付くとは思えないが、これから先の日本を考えると、少しは短期的国益にも貢献すべきだという要求を無視することはできないだろう。

JICAとしては、国益とも向き合って、もっと真剣に開発計画立案能力の形成から、そのプロジェクト調査、可能性調査のあり方を進化させながら、官邸に実施の現場まで指導されないよう自負心をもって体制づくりに取り組む努力が必要であろう。

最後に一言。JICAは2003年の独立行政法人化、そして06年の円借款協力事業の統合以来、世界の状況が大きく変動しているにもかかわらず、その変化に向き合う本格的な機構改革に挑戦しているようには見えない。なかでも、3つの援助機能(技術協力、無償資金協力、有償資金協力=円借款)が有機的に結合し大きな成果を上げているとは言い難い。それどころか、3つの機能が縄張り争いのようにばらばらに機能しているのが目立つ。

たとえば、技術協力の波及効果を高めるために無償、有償の資金協力がバックアップするとか、有償(円借款)の効果を引き上げるために技術協力がバックアップすれば、相乗効果も高まり、日本のODAへの国際的評価も高まるはずである。1つの組織が技術協力、無償資金協力、有償資金協力という3つの機能を有しているケースは世界的に希有であることを忘れてはならない。

※国際開発ジャーナル 2020年1月号掲載

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