岐路に立つアフリカ開発会議 「官」から「民」への移行は可能か|羅針盤 主幹 荒木光弥

過熱するアフリカへの関心

国際協力の分野にとって、今年最大のイベントは8月末に横浜で開催された第7回のアフリカ開発会議(TICAD7)であろう。そこで、アフリカへの世界の関心度を測るために世界のアフリカ開発会議の歴史を追ってみよう。外務省の前TICAD担当大使で現シドニー総領事の紀谷昌彦氏の資料によると、最も古い歴史を有する国はアフリカ旧宗主国のフランスだ。1973年から今日までに「フランス・アフリカ・サミット」を28回も開催している。フランスの政府開発援助(ODA)の大半はアフリカなどの旧植民地国へ充当されていると言われるぐらい、フランスと旧植民地国との関係は今も綿々と続いている。

2番目に長い歴史を持つのは、1977年からの「アラブ・アフリカ・サミット」(過去4回開催)だ。3番目が日本で、1993年から2019年までTICADを7回開催している。4番目は、2000年から7回開催されている「中国・アフリカ・フォーラム」と、5回開催の「EU・アフリカ・サミット」がある。6番目は2006年から5回開催している「韓国・アフリカ・フォーラム」と「南米・アフリカ・サミット」。7番目は2008年から3回開催している「インド・アフリカ・フォーラム・サミット」。8番目は2016年から2回開催している「アフリカ・イタリア・サミット」などがある。

このように、フランス、日本、中国、韓国、インド、そして地域としてアラブ諸国、欧州連合(EU)、南米との外交・経済交流が幅広く展開されている。これは世界のアフリカへの関心の高さを明示する証だ。

今年10月には、ロシアも世界の潮流に乗り遅れまいと首都モスクワで「ロシア・アフリカ首脳会議」を開催した。ロシアはかつての東西冷戦を引きずるように「西側企業はアフリカでこれまで460億ドルの収益をあげながら、アフリカの収益は60億ドルに過ぎない」と欧州を中心とした西側がアフリカをいかに搾取しているかを批判している。ところが、売り物の少ないロシアは、“死の商人”のように、高性能の武器を売り込んでいる。これでは西側批判の価値が失われてしまう。これも民族紛争が多発するアフリカの現実である。それゆえに、私たちは「開発と平和」を掲げて歩き続けなければならない。

日本のTICAD史

次に、日本とアフリカとの歴史を追ってみよう。第1のステージは、1984年頃のアフリカ大旱魃による飢餓救済キャンペーンであった。この時は、一人の外交官から始まった飢餓救済募金のための「節食ランチ」運動が、「アフリカ月間」という運動とともに全国に広がり、国民の間にアフリカ飢餓救済への気運を高めた。さらに、アフリカに毛布を100万枚贈る国民運動も、俳優の森繁久彌の呼びかけで全国に広まった。日本人のアフリカへの関心はこうして一気に高まり、アフリカ支援(協力)の国民的コンセンサスがつくられていった。

こうした土壌の中で、外務省は1993年に第1回のTICADを開催した。外交は相手の事情も大切だが、外交を支える国民のコンセンサスも大切である。当時の日本は高度成長期にあり、財政面でも余裕があり、ODA実績も世界一を誇っていた。

ただ、初めの議論は主に政府ベース援助のあり方や債務処理などが中心で、まだ民間投資などの関心は低い時代であった。TICAD4(2008年)ぐらいからはようやくインフラ開発(道路、港湾など)や農業開発としてのコメの増産などが取り上げられ、少しずつ経済開発を指向するようになった。

2013年のTICAD5になると、「援助から投資へ」が議論のテーマになる。JICAでは地域経済の発展をも目指して、いわゆる地域と地域を結ぶ回廊開発を支援するようになる。その背景には民間投資の条件整備も織り込まれていた。

2016年のTICAD6は、初めてアフリカの地、ケニア開催となった。その時のメインテーマは人材育成と民間投資(300億ドル)であった。しかし、民間投資は振るわず200億ドルにも達しなかった。日本政府としては、今の財政はトップドナーであった時代ほど豊かではないので、それをカバーするつもりで民間投資に希望を託したが、民間側ではアフリカ投資への意欲が低く、政府の希望を叶えることができなかった。

横浜でのTICAD7では、従来の2倍を超える企業が参加して、TICAD史上初めて、民間企業を公式なパートナーとして位置付けてアフリカ諸国との直接対話が実施された。討論は科学技術イノベーションから人材育成、保健・衛生、農業、気候変動、ブルーエコノミーなどと多岐にわたったが、アフリカ側の関心は日本企業のアフリカ投資であったと言える。

民間主導の開発会議

このように、TICADは日本経済の最盛期から低迷期へ向かうにつれて、財政事情を背景に官ベースから民ベースへ大きく転換している。日本政府はアフリカ開発会議の公式パートナーとしての企業に期待を寄せている。

しかし、民間がアフリカ投資にどのくらい確信を抱いているのか定かではない。民間としては、投資は時に会社の浮沈にかかわる事柄であるだけに、政府の要請を鵜呑みにできない。

政府の財政難により公的資金でのアフリカ援助が困難ならば、次回は(一社)日本経済団体連合会(経団連)、(公社)経済同友会、(一社)日本貿易会、(独)日本貿易振興機構(ジェトロ)などが主催者となり、政府ベースの「アフリカ開発会議」から民間ベースの「アフリカ貿易・投資会議」へ、バトンタッチするという考え方もあり得る。民間としてはアフリカへの投資条件を、アフリカを巻き込みながら徹底的に議論し、投資環境整備を進めることも一考であろう。

日本のTICADはここらで整理整頓しないと、半官半民となり中心軸のない開発会議になる恐れがある。今では軸足をどこに置いているのか、中途半端な状況にあると言える。そう考えると、対アフリカODAのあり方も、次のTICADに向けての性格を明確にして、政府ベースなのか、民間ベースなのか、その立場をはっきりさせる必要があろう。政府は新たなTICADのあり方が問われていることを認識し、次へ向けて行動してもらいたい。

※国際開発ジャーナル2019年12月号掲載

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