世界の資金移動の激変
資本主義は極致に達しているという。
世界の資金移動を見ても、民間資金が膨張し続けている。たとえば、開発途上国への資金の流れを見ても、今や公的資金は10%程度で、民間資金が大宗を占めている。
日本の場合、公的資金(ODAなど)は28%程度に過ぎず、民間資金が72%を占める。たとえば、2012年における日本の開発途上国への資金の流れ(財務省)によると、総額1,098億ドルのうち、ODAは187億ドル、OOF(ODA以外の公的資金)は122億ドルで総計は309億ドル。他方、民間資金は789億ドルで巨額化している。他では非営利団体による贈与が5億ドルである。
2000年以降、開発援助の「官民連携」が唱えられてきた背景が、こうした世界の資金移動から浮き彫りにされている。
これまで「開発援助は公的資金が中心」。だから「インフラ建設も公的資金」という考え方が支配的であった。しかし、これからは公的資金10%に民間資金90%という構成のインフラ建設が国際社会に多く登場しよう。
営利の薄いインフラ建設の場合、公的資金が請け負うというケースも出てこよう。いずれにしても現在は政府と民間が協力しなければ、競争力を維持することはできない。政府は開発資金提供、民間は技術力、経営力提供というタイアップ方式をとっているが、国際協力銀行(JBIC)などの資金力増強、対応能力の強化が進展すると、民間資金とのコンソーシアムによって民間資金を巻き込んだ国際競争力の戦力強化が考えられる。
しかし、これだけの努力で巨額のインフラ受注戦略は完成しない。もっと重要な基本的課題が残されている。
それは、インフラ建設構想を計画に落とせるデザイナー、つまり高度な開発コンサルタントの登場である。戦略的に考えれば、新しい都市開発であれ、鉄道、地下鉄など交通網の整備であれ、それらは当該国の国家開発計画の中に含まれるものであるから、日本がこの段階から参入できれば、開発計画立案、そして実施において初めから日本の経験に基づく知識、知恵、経験を参入させる戦略展開が可能になる。これは、いわゆるインフラ建設の上流部門(アップストリーム)戦略に当たり、官民連携という枠組みの中ではODA(政府部門)に当たる。
計画上流への戦略
他方ODAでは、上流部門に対しては高度な専門家派遣で対処することもできる。例えば、1980年代においてインドネシア政府への日本専門家の派遣総数は約800人規模であった。国家開発計画の総元締めのような通称バペナス(国家開発企画庁)をはじめ各省庁に計画立案などの専門家を多数派遣していた。当時、筆者が取材した農業省には局長アドバイザーのような資格で日本の農業政策専門家が派遣され、局長席の横に席を設けられていたが、当該局長の立案する農業政策は日本の専門家のアドバイスによって完成されていた。
ところが、現在のODAでは、専門家派遣も、開発途上国の国家開発計画やマスタープラン(総合開発計画)作成協力も衰退の一途をたどっている。今の日本の開発協力は端的に言って、インフラ計画において一番大切な“頭脳部門”(考える能力)を弱体化させているのである。
日本のマスタープランづくりは、その歴史を満州開発に求められるほど古い。欧米には総合開発計画づくりが存在しない、と言われている。個々のインフラプロジェクトはマスタープランの中にはめ込まれているもので、国家の成長スピード、その需要動向に応じて、次々と開発計画や個々の開発プロジェクトが実施に移される。そうした大きな総合的開発の絵を地域別、分野別に描くのが高度な開発コンサルタントや専門家たちの役割である。
しかし、現実はマスタープランづくりのODA予算は計画段階で年々減少し、需要が少なくなるので、供給能力も減退している。現在、開発途上国の総合開発計画を立案できる開発専門家(コンサルタント)は数人に満たず、高齢化が進んでいる。ODA予算減少の中で、ODAの戦略的な効果的、効率的活用という面で最も重視すべきマスタープランづくりの専門家である開発コンサルタントの衰退は、長期的に見て日本の開発途上国へのインフラ輸出戦略で最も重要な部門を失うことになる。
政府のインフラ輸出戦略は、今のところトップダウン外交の力で支えられている。しかし、国際競争力の根源をたどれば、開発途上国の国家開発計画や総合開発計画(マスタープラン)など、開発頭脳を提供できる高度な開発アドバイザーや開発コンサルタントの長期派遣で開発途上国政府の経済・開発計画部門とのパイプを太くし、人的ネットワーク(専門家グループ)を構築することにあった。
コンサルタントの総合力
他方、開発コンサルタントにも開発への総合力が求められる。現在、顧客の多種多様な開発ニーズに、包括的に対応できる総合技術力と、その力を駆使してプロジェクトを成功させるマネジメント能力を備えている総合コンサルタント企業は2社程度に留まっている。
これは一つの提案であるが、日本のODA分野だけでなく、広く世界の開発ニーズに対処できる「総合開発コンサルタントグループ」を、それぞれ得意とする分野の開発コンサルタント企業が結集して編成設立することも一案ではなかろうか。とにかく、総合力がなければ高度なインフラ建設計画にも対応できないのが、現在の世界的状況である。これからは、先にも述べたように、世界はODAのシェア10%の時代に入る。その傾向はインフラ部門にも反映され、民間資金の役割がより強くなる。
したがって、ODAコンサルタントから世界の開発コンサルタント需要に応じられる、外に開かれた総合開発コンサルタントを目指さなければ、日本の開発コンサルタントの将来は暗い。個々のコンサルタント企業が特技・ノウハウを持ち込む総合的企業を創設し、将来はその経験を活用して、各自の総合力を高めた企業として、再出発することも考えられる。とにかく、これからは狭い日本から世界へ飛び出す企業戦略が必要となろう。
※国際開発ジャーナル2016年2月号掲載
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