新しい連携の動き
最近、ODA(円借款)を活用した政府の「経済協力インフラ輸出戦略」に新しい動向が見え始めた。そこで、本号ではそうした動きに焦点を当ててみたい。それはインフラ輸出、またODAの新たな進化を意味しているかもしれない。
7月18日付け読売新聞(夕刊)は、「日本式ゴミ収集海外へ―政府の途上国支援―ゴミ分別、リサイクル、法体系確立支援」と報道した。それによると、政府は環境分野のインフラ輸出の強化に乗り出して、ゴミ問題に悩む開発途上国に対し、日本式のゴミ収集、処理システムの導入を支援する方針を打ち出しているという。
さらに報道では、政府は環境面での国際貢献(国際協力)と環境に関する日本企業の海外進出という“一挙両得”を狙ったものだと述べている。ゴミの収集、処理、さらにゴミの選別、再生というゴミの有効活用は、包括的な環境関連プログラムでもある。これを一つの国際協力のシステムとして考えれば、そのニーズ(需要、要請)は開発途上国だけでなく、新たな発展段階に差しかかっている中進国にも多いとみられている。
法律、制度設計を伴うインフラ開発は、今後ゴミ処理協力にとどまらず、郵便、農業協同組合、都市開発、物流サービス、介護、教育などへ大きく広がっていく可能性が高い。たとえば報道によると、すでに郵便分野では、民間の三井住友銀行と日立製作所が、ベトナム国営企業であるベトナム郵便会社の提供する金融サービスの電子化を支援するという。
また、国際協力機構(JICA)の「カンボジア車両登録・車検制度の行政制度改革プロジェクト」を、NTTデータ経営研究所とNTTデータが、(公財)日本自動車輸送技術協会、インテムコンサルティング、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーと組んで受注している。
さらに、ベトナムではJICA(円借款)と民間との共同で、中間層向けの住宅ローンや個人信用保証制度をつくる協力が押し進められている。
こうした政府(ODA)と民間企業との連携による、制度設計を含むパッケージ型の国際協力は、第3次「ODA大綱=開発協力大綱」に定められた“官民連携”の新しいモデルでもある。
一味違う戦略
一方、政府の「経済協力インフラ輸出戦略会議」では、中国、韓国などの激しい攻勢に対処して、これまでとは一味違うインフラ輸出戦略を押し進めるべく、ソフトを重視した包括的な輸出戦略を検討している。
たとえば、東南アジア諸国連合(ASEAN)への新たなアプローチでは、国土計画や都市計画の策定や見直しを提案して、施設(インフラ)の運営から維持管理(メンテナンス)を担う人材養成、それに、関係する法制度の整備も支援するとしている。つまり、政府は単にインフラだけでなく、制度設計、人材育成などを包括した総合的なインフラ輸出戦略をもって、日本の国際競争力を高めたい意向のようだ。たとえば、首相官邸ではすでに次世代の輸出戦略として「アジア健康構想会議」を設けて、日本方式の介護、施設、看護士教育などの協力とともに、介護施設、健康機材なども含む新たな輸出戦略を企画している模様。
ところが、一方ではこうしたインフラ輸出戦略に対して、日本の制度ソフトなどを主役に立てて、民間企業を絡ませる形で「ソフトインフラ」として、新たな輸出戦略に役立てられないか、という研究が民間のシンクタンク(野村総合研究所など)で始まっている。
たとえば、「都市開発/町づくり」などでも地方公共団体のみならず、不動産デベロッパー、建設会社、設計会社、環境関連エンジニア企業などの民間企業との連携のあり方を模索中だ。農業協同組合づくりでも、JAのみならず、農機具メーカー、種苗企業、肥料メーカー、農業資材メーカー、民間金融機関などとの協力体制づくりが大きなテーマになってくる。
外と内のマッチング
しかし、筆者は本来、そうした「ソフトインフラ」づくりはODAがリードすべきではないかと言いたい。「郵便システムづくり」、「都市づくり」、「農協づくり」、なかでも「教育・人材育成」は制度移転や人づくり協力を標榜するODA(JICA)の得意とする分野であるはずだ。
ただ、一口に教育といっても、ODAでカバーする分野は多岐にわたって複雑である。その領域は学校教育のみならず、いろいろな多くの職業分野や技術分野など産業社会全般に及んでいる。しかし、日本のODAでは高等教育に重点を置き、どちらかというと職業教育、産業教育などに弱い。また、法体系、制度設計といった超ソフト支援にも弱いと言ってよいだろう。その原因は、日本の国際協力がオールジャパン体制になっていないからである。特に、ODAでありながら、行政を司る霞が関省庁との連携が緊密ではない、と言っても過言ではない。特に、実施機関のJICAが独立行政法人になってから、中央官庁との連携が弱まったように思う。
とにかく、外務省のみならずJICAも外向き志向が常に強く、国内と外国とを連動させて協力体制を組む発想に乏しい。ODAは外交の手段だと言っても外交は内政の反映でもあるはずだ。だから、ODA関係者はもっと内政、国内事情に精通して、国内各地にある技術、経営ノウハウ、日本的システムを開発途上国のニーズと合致させながら、日本のODAの質を高めるべきであろう。
現在、JICAは途上国市場を目指して日本の地方再生に協力するとともに、開発途上国の産業基盤の育成に協力すべく、日本の中小企業技術、経営ノウハウを開発途上国に移転する「中小企業海外展開支援」を実施して5年目を迎えている。今ではODAも地方に浸透して、少しずつODAの役割が理解されつつある。ODAが中小企業との連携にとどまらず、もっと広く国内の技術、経営ノウハウとマッチングできれば、ODAの質を高められるとともに、ODAへの全国的な理解と支持を高められる可能性が大いにあると言いたい。
筆者も中小企業海外展開支援の取材で地方を歩いてみて、いかにODA事業が地方に浸透していないかを知らされることが多い。もう少し、広く国民各層に親しまれるODAにするには、もっと国民に寄り添うような実施体制を探究すべきであろう。そうしないと、ODAの将来はない。
※国際開発ジャーナル2017年10月号掲載
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