国連が認める活動へ
今回は、創設60周年を迎えた日本を代表するNGO、(公財)オイスカ(OISCA)を筆者の視点で取り上げてみたい。今では、政府開発援助(ODA)においても、NGO部門として人材育成などで重要な役割を果たしている。
オイスカの名前は、O(Organization:機構)、I(Industrial:産業)、S(Spiritual:精神)、C(Cultural:文化)、A(Advancement:促進)から成る。オイスカは、これらを人間の生存にとって欠かせない要素だと主張している。
とにかく、その歴史は古い。本誌創刊時(1967年)は、今の国際協力機構(JICA)の元祖、海外技術協力事業団(OTCA、1962年設立)が存在していた。OTCAは、戦後賠償援助を引き継ぐように日本のODA実施機関としてスタートを切ったが、その時にはすでにオイスカが発足していた。オイスカの創設者・中野與之助氏は、日本がまだ戦後復興中にアジア諸国を訪ね、各国首脳と会っている。その頃、日本政府は東南アジア諸国への戦後賠償を行っていた。日本もまだ食糧問題に悩んでいる時に、オイスカはアジアの食糧問題に立ち向かっていた。今でもオイスカが食糧を産み出す農村を、そして農業する人びとを大切にして、技術的に、精神的に支援する歴史的バックボーンは戦後日本の食糧難時代にあったのではないかと考えたい。
オイスカは早くも1975年に国連の経済社会理事会の特殊諮問資格を取得し、わが国最初の「国際NGO」として認知されることになった。78年頃からは「国際青年」制定のキャンペーンを開始し、79年にはそれが実って国連総会で85年を「国際青年年」とすることが決議された。当時の国連の場では、「日本の国際人」と言われた大来佐武郎氏(外務大臣を務めた日本の国際人。本誌創刊の発起人)も国際NGOとしてオイスカを推薦していた。オイスカは、こうしてアジア農村での草の根的な活動が国際的に認知されるようになった。
植林の国際協力へ
1980年代に入ると、オイスカは組織の活動方針を「LoveGreen」とし、「苗木一本の国際協力」を掲げてフィリピンなどで本格的な植林運動に着手する。森林減少が気候変動を引き起こし、農業の持続的な発展を阻害するようになったからである。オイスカは80年代から持続的な自然再生のための森林保全活動をアジアで展開し、例えば2020年にはフィジー、インドネシア、フィリピン、タイ、バングラデシュ、中国、ウズベキスタンなどで、面積にして約266ヘクタールで約70万本を植林している。
特に、南の国々にとって沿岸に広がるマングローブ林は、生活の源泉と言っても過言ではない。マングローブ林は、多くの稚魚たちの保育器のようなものであり、海水汚染を浄化する機能も備わっている。さらに、マングローブ林には台風、サイクロンを防ぐ役割もある。
オイスカは2020年には、企業・労働組合等の支援でインド、タイ、フィリピン、バングラデシュ、フィジーの5カ国において、総計164ヘクタールで約57万本のマングローブ植林を行った。1990年からのマングローブ植林実績は、累計で8,376ヘクタールと広大なものである。
筆者は、オイスカの「苗木一本の国際協力」の中でも、1990年代の創立30周年事業として始めた「子供の森」という名の森づくり活動に注目している。個人的にも意義のある活動だと思う。これからの将来を担う子供たちが、自ら植林し、植樹と共に成長し、その経験を次の子供たちに継ぎ、それが地域から社会全体に広がっていくことを考えると、まさに世代を継ぐ持続可能な国際協力になっていくことが考えられる。それはまさに世代を継いだ、森をつくるプログラムだと思う。
37カ国5,343校の実績
1970年代はじめだったと思うが、ある専門家いわく、ODAベースでフィリピンでの植林協力が始まり、その植樹が10年ぐらいで腕ほどに育ったかと思ったら、貧しい村人が薪用として伐採してしまうから、植林事業が成り立たないとぼやいていた。つまり、いくら植林しても、村に植樹を守る一種のモラルがないと植林事業は成り立たない。しかし、貧困下ではモラルなど通じない。
そういうことを考えると、オイスカの始めた学校を巻き込んだ森づくり活動の一環としての「子供の森」計画は、子供たちへの森をつくるという教育効果が、世代を継いで持続されるので、その社会的意義はさらに大きい。とにかく子供の時から自然を守るという意識が継承されていく意義は大きく、多くの人びとに支持されている。事実、「子供の森」計画への寄付行為は群を抜いている。
1991年から2020年までの「子供の森」計画の累計本数実績は、37カ国と地域の5,343校に及んでいる。まず累計本数で見ると、12カ国で777万3,266本。うちベスト3を挙げると、第1位がフィリピン、第2位がインド、第3位がフィジーである。参加校数ベースで見ると、その総数は5,343校で、第1位はインドで2,116校、第2位フィリピンで1,141校、第3位インドネシアで434校などである。
参加国名を挙げると、バングラデシュ、中国(内モンゴル)、カンボジア、フィジー、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、パプアニューギニア、スリランカ、タイの12カ国である。オイスカの子供たちを通しての、子供時代からの森を守るという環境教育は、時代を継いでいくので、その教育効果は測り知れない。
筆者は、国連、ユネスコベースの運動へ発展することも願っている。もっともその前に、日本政府がODAベースで支援してもよいと思うが、基本的にはNGOベースの「子供の森」計画を政府(ODA)がバックアップするという形が国際的に見てもスマートな形だと言える。
今や私たちには地球的な規模で、産業革命以来の地球汚しのツケが怒涛のごとく押し寄せている。私たち一人ひとりの行動が、私たちの未来を決めることになる。
以上、オイスカというNGOの国際活動を民間ベースの国際協力という視点で見てきたが、その資金的規模などはODAベースと比べると比較にならないものの、アジアの大衆への浸透度は決して侮れない。
※国際開発ジャーナル 2021年10月号掲載
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