経団連の政府への要望 戦略的インフラシステムの海外展開 期待されるODA分野|羅針盤 主幹 荒木光弥

ファイナンス支援強化

(一社)日本経済団体連合会(経団連)は、3月15日付けで「戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて」という2021年度版の日本政府への提言を公表した。全体としては、言うまでもなく経済界、民間企業の立場からの厳しい提案となっている。

全体の構成は、(Ⅰ)インフラシステム海外展開に関するこれまでの取り組みと現下の課題、(Ⅱ)戦略的なインフラシステムの海外展開に向けた具体的要望、(Ⅲ)With/Postコロナ時代を見据えた今後一層の注力すべき分野など。

ここでは、(Ⅱ)の中の「ファイナンス等の支援強化」「官民一体となった案件の形成」など政府開発援助(ODA)に深く関連する要請に焦点を当ててみたい。(Ⅱ)の戦略的なインフラシステムの海外展開に向けた具体的要望は、日本政府や国際協力機構(JICA)など関係機関に向けて(1)新型コロナウイルス感染症への対応、(2)グリーン戦略の推進、(3)サプライチェーンの強靭化、(4)国際標準化・国際ルール整備への関与、(5)ファイナンス等の支援強化、(6)官民一体となった案件の形成などが主な内容である。

それでは、「ファイナンス等の支援強化」に関する要望を重点的に追ってみよう。

ここではODA(円借款、無償資金協力、技術協力)として、「新型コロナ対応」「各種支援策の拡充および手続きの迅速化」「有事への対応」、そして「JICA海外投融資」「JBICの投融資」「NEXI(日本貿易保険)」などが主な内容。

まずODA部門では、新型コロナ対応として、JICAの「新型コロナウイルス感染症危機対応緊急支援借款」が、インフラの海外展開を継続する上で大きな支えになった。だが工事の遅延や中断などの影響は未だ解決されていない。これからは、渡航再開を視野に官民が連携して、十分な入札準備期間を確保した上で、新規案件の形成が望まれる、としている。

協力の多様なメニューづくり

さらに、コロナ禍の影響による現地調査不足を補うために、コンサルタントによる追加調査の実施、現地渡航用の追加費用への対応を継続し、ホスト国などの施主による「工事一時中止計画書」の承認および経費精算手続きの迅速化に向けた、JICAによる側面的な支援強化、さらに、鋼材等の資機材価格や輸送費の高騰など急激なコスト増に対応した事業予算の見直し、適切な事業予算の確保、それらに資する協力準備調査の拡充、サプライヤーのリスク軽減などが必要である、としている。

一部の案件では、原料の市場変動リスクを価格に反映できないため、サプライヤーである日本企業がリスクを負担する事例があるとして、市場変動リスクを反映させるため、価格調整項目を盛り込むことなどが考えられるとしている。

また、コロナ禍でも海外における円借款や無償資金協力などの各種案件を円滑に実施できるように対面協議や交渉の次善策として、ICT環境を構築して現地の進捗管理を行うことを求めている。

それは、積極的な円借款の供与、無償資金協力の拡充、円借款、無償資金協力とPPP(官民連携)の組み合わせなど、多様なメニューをつくり、拡充することであるとする。特に、アフリカ諸国については、本年8月にチュニジアの首都チュニスで開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に向けて検討すべきであるとし、アフリカ諸国の財政再建に向けた根本的な支援のため、技術協力スキームによる、財務、税務、経済政策のアドバイザー派遣などが考えられるとしている。

ODA実施の迅速化

次に、「各種支援策の拡充や手続きの迅速化」と題して、以下のような課題が強調されている。

インフラシステムを海外展開するためには、ODAの各種ファイナンス支援の一層の強化、さらに制度・運用両面の改善が欠かせないとしている。

たとえば、円借款の本邦技術活用条件(STEP)については、わが国企業が参画しやすい施策が継続された結果、案件拡大へ向かっている。しかし、一部では価格乖離などで入札不調が発生しているので、引き続き改善を希望したい。また、業界によっては日本企業の現地化が進んでいることもあって、無償資金協力の見直しを期待したいとしている。周知のように、無償資金協力における主契約者は、日本で設立された法人に限定されている。しかし、近年、日本企業の海外ビジネスの現地化が加速し、日本企業が主契約者となった上で、現地の関係会社に再委託するケースも増えている。この場合、主契約者になれば、より低廉なコストで相手国のニーズに沿った支援が可能となり得るとする。こうした考え方から、無償資金協力における再委託や調達の現状を把握した上で、主契約者条件を緩和することも考えられる、としている。

さらに、ODA事前調査・設計精度の向上、そして適切な計画・設計、さらに適切な事業予算、入札期間、工期などの確保が重要になるとする。

特に、デジタル・ICT案件に関しては、スピードこそ案件獲得の最大のカギであるから、円借款による案件形成から契約までの時間短縮が重要であるとする。さらに、高額のインフラを維持するためには、入札条件に長期的な視野に立った評価項目を盛り込むなど、他国との差別化やJICA調達ガイドラインの遵守をポスト国に徹底してもらうことが求められる。部品交換やアップグレードを含むアフターサービスもODAの全てのスキームの対象にすることが望ましい。さらに、運営・維持管理(O&M)や人材育成などソフト面での対応に関する案件形成、整備・技術動向を踏まえた円借款事業などにおける調達技術仕様の通時見直しを強調する。

また、十分な情報を入手してリスクに対処するとともに、資金を効率良く活用し、より多くの案件を実施するために、アフリカ開発銀行(AfDB)と日本政府とのパートナーシップによるアフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブを目指して、AfDBへの働きかけなどが期待される。

特に、日本企業に対する融資の積極化、JICAの海外投融資との積極的な併用などが強調されている。さらに、ODAの積極的な活用を通じた民間リスクの低減を図るために、たとえば上下分離型案件やJICA関与型の事業運営権付き無償資金協力の拡大、JICAのリインバース方式の改善が求められている。

※国際開発ジャーナル2022年6月号掲載

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