第8回アフリカ開発会議の論点 「質高成長」「人間の安全保障」「能力向上」|羅針盤 主幹 荒木光弥

歴史の都市チュニス開催

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が8月27、28日の両日、サハラ以北の地中海に面したチュニジアの首都チュニスで開催される予定だ。アフリカでの開催は2016年のケニアに続く2回目である。

アフリカ開発会議は1993年の第1回開催以来、多くは日本で開催されてきた。アフリカでは2016年に初めてサハラ以南アフリカのケニアで開催され、今回のサハラ以北アフリカのチュニジア開催は2回目のアフリカ開催となる。ただ、同じアフリカ大陸にあっても、サハラ以南アフリカと地中海に面したサハラ以北のアフリカ(エジプト、リビア、チュニジア、モロッコ、アルジェリア)とは、気候はもとよりその歴史も大いに異なる。

塩野七生著『ローマ亡き後の地中海世界』(新潮文庫)によると、「古代ローマ時代では、シチリアも本国に農産物を輸出していたが、同時代のチュニジアの重要度はシチリアどころではなかったのである。古代、アフリカと言えば、チュニジアのことであったくらいで、この時代のチュニジアはカルタゴを中心とした農業と通商で、そして特にアフリカ奥地から運ばれてくる黄金で、北アフリカ全体の要とされる価値は充分にあった」と述べている。

このようにローマ帝国の時代にあって、北アフリカは“ローマの穀倉”と言われている。なかでもチュニジアの海港都市カルタゴはローマへの穀物輸送の拠点として繁栄したと伝えられており、今でもチュニジアには多くのローマ遺跡が各地に点在している。

その後、カルタゴがイスラムの軍門に下ったのは紀元698年で、その頃はすでに北アフリカ全域がイスラム化していった。

重視される企業動向

それでは、本論に戻ることにする。去る3月26日、TICADの閣僚会議がテレビ会議方式で開催され、アフリカ50カ国が参加した。林芳正外務大臣は、人間の安全保障という理念の下で、「人材」と「成長の値」に重点を置く持続可能な開発目標(SDGs)の実現を強調し、続いて、鈴木貴子外務副大臣は人間の安全保障を目指して、「保護」「能力強化」に加えて「連帯」を強調し、アフリカでの新型コロナウイルスの克服をバックアップしながら、「人材投資」「環境問題」への支援を強調した。

日本の考え方をもう少し整理してみると、第1点は「質の高い成長」を目指し、アジアでの経験を生かしながら、日本企業の高い技術やノウハウで「質の高いインフラ」整備を促進するという考え方だ。第2点は「人間の安全保障」。それはアフリカの人びとの「能力強化」を図り、社会づくり、国造りへの参加をバックアップすること。そのために日本はさまざまな取り組みを進めたいとしている。なかでも、アフリカに進出する日本企業もアフリカの若者一人ひとりの育成に貢献できるとしている。

第3点は、「官民一体となったアフリカ開発」だ。日本の民間セクターとアフリカ側双方から、アフリカへの民間投資に大きな期待が寄せられている。TICAD7では日本政府として、民間企業の対アフリカ進出を後押しするために、「日本・アフリカ官民経済フォーラム」の立ち上げを発表し、投資協定、租税協定、そして租税協定交渉を推進することを明らかにしている。

2022年4月、「TICAD7の官民円卓会議民間提言」が時の安倍晋三首相へ提出され、「アフリカビジネス官民協議会」の設立、TICAD7におけるアフリカ7カ国での「二国間ビジネス環境改善会議」の発足など、アフリカへの投資促進が後押しされた。

隔靴掻痒(かっかそうよう)の感あり

(一社)日本経済団体連合会(経団連)の2021年度版提言「戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて」では、次のようなことが提言されている。「積極的な円借款供与、無償資金協力の拡充、円借款、無償資金協力とPPPの組み合わせなど、多様なメニューの構築と拡充。特に、アフリカ諸国については2022年にチュニジアで開催されるTICAD8を目途に対応すべきである」。また、「戦略再建に向けた根本的な支援のため、技術協力スキームによる財務、税務、経済政策のアドバイザー派遣や教育等が考えられる」。

さらに、アフリカ開発銀行(AfDB)と日本政府とのパートナーシップによる「アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ」の利便性向上のためAfDBへの働きかけなどが期待される、としている。特に、日本企業案件における金利を含む条件緩和、手続きの迅速化、国際協力機構(JICA)の海外投融資の積極的な併用などが期待される、としている。

次に、外務省の資料でこれまでの日本企業のアフリカ進出状況を、営業所の開設までを含めて大雑把に見ると、チュニジアはモロッコ、エジプトと共にベスト10内に入っているが、なかでも南アは別格だ。次にモロッコ、エジプト、ガーナ、ナイジェリア、モザンビーク、タンザニア、ウガンダ、チュニジアという順位になっている。これから見て、サハラ以北の地中海に面したモロッコ、エジプトに続いてチュニジアも日系企業の進出先として高い人気を集めている。おそらく、投資する者にとってサハラ以北の地中海に面した国々は、ヨーロッパ市場に近いこともあって有望視されているのであろう。

それにしても日本企業のアフリカ進出は欧米に比べて“隔靴掻痒の感”ありで、もどかしい感じがする。だから、TICAD8が地中海を挟んでヨーロッパ市場と対面するチュニジアで開催される意味は、企業戦略的に大きいと言える。目下、政府開発援助(ODA)資金面で大きく貢献できない日本にとって、民間資本の動員はアフリカ開発協力の要諦だと言える。

他方、欧州連合(EU)は2021年12月、EU域外向けに新たなインフラ支援戦略となる「グローバル・ゲートウェイ」を公表し、2027年までに最大3,000億ユーロの投資(主に融資や公的保証)を目指すことを明らかにしている。まさに強敵現わるである。地の利、過去の経緯からヨーロッパにとって、アフリカは熟知の大陸である。日本にとって、今後、ヨーロッパの動向は、大いに注視しなければならなくなるだろう。

※国際開発ジャーナル2022年7月号掲載

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