上意下達的な態度
今回は、政府開発援助(ODA)事業を支える屋台骨とも言える開発コンサルティング企業の経営的な悲鳴に耳を傾けてみたい。このグループが経営的困窮ないし経営破綻すると、日本のODA事業が成り立たないと言っても過言ではない。
世間では、ODA事業者はすべて国際協力機構(JICA)のように見られていて、事業実施において頭脳的役割を果たしている開発コンサルティング・グループの存在がそれほど理解されていない。彼らは常にJICAの影武者的な存在のように見られている。
そういう状況を作り出した責任は、日本政府にあると言いたい。例えば、「開発協力白書・ODA白書」などで実施機関であるJICAは大きく扱われても、ODAやJICAの屋台骨を支えている開発コンサルティング・グループの存在についてはJICAの内輪に取り込まれた影武者的な扱いになっている。これではJICAとのパートナーの意味が薄れてしまう。その傾向は日を追うように深まっているように感じられる。
例えば、JICA調達部は2月6日、「コンサルタント等契約に係る積算基準の改正について」という通達を出した。それがいかにも上意下達的である。例えば平成30年度の財務省による予算執行調査において、「コンサルタントの人件費・間接経費の積算方法をゼロベースで見直すべき」との指摘を受け、2019年度「JICAコンサルタント等契約に係る経費実態調査」を実施したとある。そこには、財務省の指示・指摘を受けて積算基準の改定を行うという主体性のなさが露呈されている。いかにも“御上の代理人”といったイメージが浮き彫りになっているように感じる。
JICAは2017年に予算執行管理問題を起こし、18年に財務省による予算執行調査を受けている。以来、これは筆者のミスリードかもしれないが、財務省に対して独立機関としての発言力が小さくなっているように見受けられる。
望まれる適正な報酬
ここらで、本題に入りたい。それはコンサルティング業界の直面している経営不安の問題である。第1は、常態化している低収益性の問題だ。その主な原因には、色々な調査事業におけるM/M(マンマンス。一人当たりの業務人付)不足が挙げられる。これはODA予算の減少に伴う処置だと見られている。予算不足を案件の削減ではなく、1件当たりのM/Mの削減でカバーし、そのツケを実施者のコンサルタントへ転嫁しているようにも見える。最近の質とコストをベースにした選定を行う「QCBS」方式などもコンサルタントの経営圧迫の一因になる可能性が高いとみられている。
第2は、JICAへの高い依存度だ。JICAへの依存度が大きいと言っても、もともとはODA事業のコンサルティングを請け負う専門集団として発足した企業であるから、収益の多くはODA事業によるものである。そこで、その偏重を避けるために、国際化を図るか、また国内のマーケットに参入するかなど、模索が続いている。
JICAとのコンサルティング契約額は、推定ではあるが、年間約800億~1,500億円ほどではないかと見られている。その推定に従うと、これに200~300社が参入したとして、それを200社に絞ると、単純計算して1社当たり約7億5,000万円程度の売上が考えられる。うち利益率を1社当たりで単純計算すると、1%で750万円、2%で1,500万円という勘定になる。1~2%程度の利益率では経営が成り立つかどうか定かではない。
(一社)海外コンサルタンツ協会(ECFA)メンバーの営業利益率を2012~13年から2016~17年で見ると、4.7%、1.9%から一気に-0.8%、-5.0%、-2.0%と急降下して止まらず、1%、2%の利益確保もままならない状況に陥っている。
また、日本の産業別の2018~19年度純利益率ランキングでは、ネット証券が15.6%、銀行10.8%、M&Aコンサル/経営コンサル、シンクタンク9.6%、金融8.5%、不動産6.1%、化学5.3%、建設4.3%という状況である。国内比較をしても、開発コンサルティング業界の経営がいかに苦しいか一目瞭然である。
ただ、JICAはコンサル単価を引き上げていないわけではない。10年前に比べれば月額単価は15~25%ほどアップしているものの、各社ともに低利益率の状況が続いているようだ。その理由は、どうも適正なM/Mが確保されていないのではないか、という結論になりそうだ。
人材が集まらない
国土交通省などの国内官庁と比較してみると、1人の専門家が手掛けることができるプロジェクトは最大10件までと定められているようだ。一方、JICAの場合は1人の専門家の受注は1プロジェクトに限定されている。だから、1人当たりの経営効率が大きく異なる。国内官庁は日本のコンサル業界の健全な発展を守るという使命に立脚しているが、なぜかODA分野は国内企業の発展のために存在していない、という一種の誤解の上に立脚しているかのようにも見える。
最後に一言。これまで開発コンサルタントの直面する問題を考えてきたが、今や経営上の最大の悩みは“人材確保”である。毎年、JICAへの新卒応募者数は一流企業並みであるが、現場でODA事業を支えようとするコンサル業界の若手人材の確保は極めて難しい状況にある。今では待遇がネックとなって、新卒どころか中途採用も厳しい。どうしても待遇が他分野より低く、業界の知名度も低いからではないかと考えられている。政府にお願いするとしたら、第1に、政府はすべてのODA案件の質に重点を置いて選択と集中を行い、それに伴う形でコンサルティング部門の質を重視しながら待遇改善を行い、次世代を担う若手人材育成を一つの政策として取り組んでもらいたい。第2に、JICA事業を支える開発コンサルティング・グループを前面に押し出してもらうことである。例えば、ODAに関する委員会にはメンバーとして、経験豊富なコンサルタントを必ず参加させてもらい、常に業者扱いではなく、専門家扱いにしてもらいたい。そこから知的産業としての知名度アップが始まるものと考えたい。
※国際開発ジャーナル 2020年4月号掲載
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