受け身型援助から提案型援助へ 要請システムの矛盾を突く|羅針盤 主幹 荒木光弥

要請システムの工程ロス

開発援助の考え方やあり方が国際的に流動化している。今回は日本の開発援助の要請主義に言及してみたい。

この問題は日本の開発援助改革の根本問題であると久しく言われながらも、これといった見直しもなく今日に至っている。要請主義を問題にすると、当局は「要請主義は存在しない」と言う。しかし、実際は形式的とはいえ、要請システムは旧態依然として存在している。

それでは、まず要請システムの実像を少したどってみよう。現在、開発援助というものは、援助を必要とする開発途上国政府から日本政府への公式の要請がない限り実施に移されない。なぜならば、援助は公的資金であるから、公的な要請というルールが必要であるという。

従ってプロセスとしては、援助を必要とする開発途上国政府が、まず援助要請書ともいうべき“リクエスト・レター”を作成して、当該国の日本大使館に提出する。それを外務省本省が、案件によっては各省と協議の上、閣議決定を経て、当該途上国と援助の交換公文(E/N)を締結する。その時、円借款協力の場合はその交換公文に基づいて、当該国政府と日本の実施機関(JICA)が借款協定書(ローン・アグリーメント=L/A)を取り交わす。技術協力の場合は、相手国とR/Dといわれる議定書を、また、無償資金協力の場合も銀行取り極めなど実施協定書を取り交わす。

以上のように、要請主義といわれるものは存在しなくても、形式的な要請ルートは今も機能している。とにかく、いくら形式的だといわれても、援助実施までの工程は複雑で、そのためにかなりのエネルギーが消耗されている。

提案型援助の阻害要因

論点は、援助がタイムリーでなくなり、ビジネスライクに考えると、商機を逸するシステムになっていることである。その中で、提案型のインフラ輸出を援助ベースに乗せなければならないとなると、商機という意味では、要請から実施までの大幅なルート変更が必要となろう。とにかく従来の要請形式の大幅な短縮化が求められる。

提案型の場合、相手国との交渉をトップレベルの政治ベースのみならず、行政の実施ベースまで大胆にして綿密に交渉を仕掛けなければならない。このプロセスが提案型援助の最大の山場である。だから、E/Nだの、L/Aだのといった交渉プロセスをなるべく簡素化して、例えば要請ルートを本省直結とか、L/AにE/Nを包含させるような改革を行わないと、せっかくの提案型のインフラ含みの総合開発計画がタイムリーでなくなり、結果的に他国の干渉を許すことにもなりかねない。

さて、次の問題は、誰がトップレベルの交渉を成功させる提案型の計画書を企画立案・作成できるかである。民間側は多くの場合、自社の利益誘導のための開発計画書を書けても、当該国全体あるいは地域全体に裨益するような総合開発計画書は書いたことがない。

従って、「官民連携」の役割分担でいうと、官側が総合開発計画(マスタープラン)を書くことになる。その計画立案能力については、意外なことだが、国際的に見ても実は日本の得意芸とするところである。その歴史は戦前にさかのぼり、南満州鉄道を基軸にした満州開発時代に起源をもつ。

その発想と伝統が、かろうじて開発援助ベースのマスタープランづくりに引き継がれているが、今では限られた開発コンサルタントたちにしか、その技術力とノウハウが残されていない。ただ、それでも途上国一辺倒の援助の一環としてのマスタープランづくりを長い間手掛けてきたこともあって、日本の産業的、技術的優位性を取り込んだマスタープランづくりができるかどうか定かでない。

従って、どうしたら「官民連携」の日本型マスタープランを書くことができるのか、政府側のこれからの大きな課題になってくる。そのためにはまず開発コンサルタントが、マスタープランを発注する実施機関のJICA側に思考と行動パターンのチェンジを求める必要がある。

求められる発想の転換

先にも述べたように、JICAの従来型の思考と行動パターンは、すべて「要請主義」に基づいているので、何が何でも相手のニーズを満たすマスタープランでなければならないという立場をとってしまう。それは、まさに信念となってJICAという援助機関の一種の硬直的な文化をつくっている。

だから、われわれが「官民連携」といった場合、民間側の意図も取り入れて折衷する行動様式を求めていることに半信半疑の人たちもいる。

いずれにしても時代の流れには逆らえない。JICAはまずそこを乗り越えなければならない。そのうえで官民連携型の開発計画を開発コンサルタントに発注できれば、企業側の総合開発計画への参加意欲も高まり、安倍政権のいう日本のノウハウによるインフラ輸出の可能性が一段と高まろう。

それには、政府の開発途上国援助への大胆な発想の転換が求められる。援助である限り、途上国の要請は基本的に必要である。その条件下で、日本の新しい産業発展と技術的ノウハウの輸出に寄与できる仕組みをどうつくるかが重要になる。

その要諦は、何といってもこれまで述べたように、相手国の求める国家開発計画の一環としての、例えば、地域開発を含む新しい都市づくり、新しい産業開発基地づくりなどの開発設計の青写真を、日本の優れた環境関連技術やノウハウなどを反映させながら書き上げることができるかどうかにかかっている。

その特殊能力は、日本の開発コンサルタントに期待されるところだが、彼らには一刻も早く「すべて開発途上国の要請」という調査の要請主義から脱皮して、今度は「日本の要請」にも応じられる能力と体質を身に付ける改革が求められる。

※国際開発ジャーナル2014年2月号掲載

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