ヨーロッパ人の罪状
コロナ禍の終焉はいつになるのだろうか。今回は伝染病の世界史のようなものを追ってみたい。特に、アメリカ両大陸へ持ち込まれたヨーロッパからの伝染病の悲劇には罪深きものを感じさせられる。多くのアメリカ先住民の命が失われた。それは、ヨーロッパ人の銃や剣による犠牲者よりもはるかに多かったと伝えられている。
1519年。スペインの侵略者コルテスは、当時、人口数百万人のメキシコのアステカ帝国を600人のスペイン兵で征服した。その時、スペイン兵の持ち込んだ天然痘の大流行が勝負を決めたとされている。1618年には2,000万人の人口が、なんと160万人へと激減している。
1531年。スペインの侵略者ピサロは、人口数百万人のインカ帝国を、168人の兵士で征服したが、兵士の持ち込んだ天然痘による死者が多かったと伝えられている。1526年には皇帝ワイナ・カパックも天然痘で死亡している。
一方、北米大陸では、コロンブスのアメリカ大陸発見以来、200年も経ないうちにアメリカ先住民の人口は95%も減少したと推定されている。当時、アメリカ大陸には約2,000万人の先住民が暮らしていた。
先住民は、ヨーロッパ人たちに会うまで健全だった。ヨーロッパ人の持ち込んだ天然痘、麻疹、インフルエンザ、チフス、ジフテリア、マラリア、おたふく風邪、百日咳、ペスト、結核、黄熱病などに襲われた。例えば、1880年、カナダ太平洋鉄道がサスカチェワン地域を貫いて建設された時、アメリカ先住民の人口の9%が毎年結核で死んだと伝えられている。騎兵隊とインディアンとの戦いは、ハリウッド映画の産物だと言える。
コロンブスの持ち込んだ伝染病
他方、ハワイ諸島では、1779年に有名なクック船長とともに梅毒、淋病、結核、インフルエンザが上陸して、1804年には腸チフスが流行した。そうした中、1779年に50万人あった人口は、1853年には驚くべきことに8万4,000人に激減している。さらに、その後、天然痘がハワイを見舞った時には、残りの人口のうち約1万人が犠牲になったと伝えられている。
また、1492年にコロンブスがやって来た時、約800万人だったイスパニョラ島(ハイチ、ドミニカ)の先住民は1535年でゼロになったと言う記録がある。伝染病の恐ろしさが伝わってくる。同時に、「大陸発見だ」「大陸上陸だ」という歓喜の裏側には、伝染病の恐怖が張り付いていたことになる。“文明的殺人”と言っても過言ではない。私たちは光の部分しか知らされていないが、歴史の陰の部分には、ヨーロッパからの負の部分が張り付いていたのである。
アメリカ大陸は約2,000万人の先住民が暮らしていたと見られているので、コロンブスのアメリカ大陸発見以降、200年も経たないうちに、先住民の人口は95%へと減少したものと推定されている。アメリカ先住民は、ヨーロッパ人たちと出会うまで、ユーラシア大陸の病原菌にさらされたことがなかった。彼らには免疫力がなかったのである。かれらは天然痘、麻疹、インフルエンザ、チフスといった病原菌に襲われたのだ。さらに続いて、ジフテリア、マラリア、おたふく風邪、百日咳、ペスト、結核、黄熱病などが彼らを襲ったと言われる。
ユーラシア大陸を起源とする病原菌は、世界各地で先住民の人口を大幅に減少させた。太平洋諸島の先住民、オーストラリアのアボリジニ、南アフリカのコイサン族(ホッテントット、ブッシュマン)らもユーラシア大陸からの病原菌で大量に死んでいる。その累計死亡数は50~100%に達したと見られている。
「アメリカ発見」の暗部
私たちは「コロンブスのアメリカ発見」とか言って、冒険心にあふれたプラスの部分だけに光を当ててきた。だが、そのマイナス部分では、ヨーロッパ人の持ち込んだ恐ろしい伝染病が歴史の陰の部分となっている。
以上は、「アメリカ発見」のマイナス部分に光を当てたものだが、ヨーロッパ人の持ち込んだ多くの病原菌で、多数のアメリカ原住民が死んでいった。アメリカ両大陸ともに、ヨーロッパ人に占拠されたが、彼らの原アメリカ人に与えた最大の被害は剣でも銃でもない。ヨーロッパ人の持ち込んだ、ユーラシア育ちのいろいろな病原菌だったと言える。
このように、いろいろな病原菌は伝染病となって、一つの民族、種族を死滅させるほどの破壊力を持っていた。現在、私たちはそうした脅威を克服するだけの科学力を有しているので、過去のような悲劇にまでは至らない。しかし、生き残った菌も、生き延びるために次々と工夫して、人類を脅かすに違いない。その意味で、その攻防は永遠の課題だと言える。
さて、今回の新型コロナウイルスの発生源が中国・武漢であることは明白である。2月23日現在の被害死亡者数は、主要34カ国で389万6,509人に達している。恐らく最終的には400万人を超すことになろう。うち最大の被害国は米国をトップにインド、ブラジルであると見られる。国土の大きい国ほど、そして人口の多い国ほど被害は大きいようだ。
しかし、発生源である中国が世界最大の人口を抱えながら、2月24日現在、10万人ほどの死者数レベルでしかない。このことが、実に不思議な現象として受け止められている。それは発生時の国の対応が、時に人権無視と言われるほど厳しかったからだろうか。
残る問題は、武漢での発生がどういうプロセスを経て拡大したのか。果たして発生源が本当にコウモリだったのか。コロナ菌発生に関する根本的な解明が待たれる。(シャレド・ダイヤモンド博士の『銃・病原菌・鉄』(草思社)から多くを引用)
※国際開発ジャーナル2022年4月号掲載
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