住民が利用しやすい村落給水施設の整備
深井戸水源を生計向上のきっかけに
トーゴでは1990年代の政治的混乱や民主化の停滞によりドナー国が援助を控え、地方部における給水施設の整備が進まず、給水率が低い状況にあった。本プロジェクトは、特に貧困率が高く、水因性疾患数が多いトーゴ北部サバネス州と南部マリタイム州を対象に、サバネス州で100カ所の深井戸施設と10カ所の小規模水道施設の建設、そしてマリタイム州で50カ所のハンドポンプ施設の改修工事を行い、給水率の改善や給水人口の拡大を目指した。給水施設の維持管理を担う水委員会への能力強化トレーニングも実施した。
私は常駐施工監理としてサバネス州で約1年半にわたり、100カ所の深井戸と10カ所の小規模水道の新設工事の施工監理を行った。村落で井戸掘削地点を決定する際にまず念頭に置くのは水を出すことである。そのために電気探査など水理地質の調査結果を元に掘削地点を決めていく。一方で、住民は居住区に近い場所や、各住居から等距離にある公平な場所に井戸掘削を希望する。さまざまな関係者の意見や掘削成功の可能性を勘案して場所を決めるのは難しい作業であったが、科学的な見解に基づいた上で、住民にとって使いやすい地点や給水施設をつくることを常に心がけた。より良い給水施設をつくるためには住民や施工業者をはじめ、関係者の意向を聞くことが重要だ。使い勝手の良い給水施設に対しては住民の維持管理に対する熱意も高い。
建設した給水施設を住民自身で維持管理を行いながら使い続け、さらに井戸が近くにできることで水汲み労働時間が削減され、空いた時間に農業やビジネスなどを行うことで、農村部の生計向上が図られて行くことを期待している。
プロジェクトギャラリー

掘削地点の現場検討。地形や地下水の流れを考慮し、最も効果的な場所を選定

住民への啓発活動の様子。当日は総勢 16 人が集まり、衛生についての周知を行った

掘削前の住民との協議。地域の実情を把握するため、環境や生活条件など住民と意見交換を行った

水管理組合へのトレーニングの状況。持続的な井戸管理の方法を学んだ

完成した井戸の状態チェック。ハンドポンプの可動部に問題がないかを最終確認
プロジェクト担当者
(株)三祐コンサルタンツ
福田 康さん(ふくだ・やすし)
海外事業では主にアフリカ地方部での村落給水や上水道案件に携わる。現在はハンドポンプからソーラーなどによる動力式給水施設へのアップグレードを検討する案件に従事中。専門は水利地質(地下水)。
※国際開発ジャーナル2025年2月号掲載