外務大臣の下での「ODA有識者懇談会」 国際協力NGOの抜本的強化を目指して|羅針盤 主幹 荒木光弥

NGO強化論

河野太郎外務大臣の強い要望で発足した第1回の「ODAに関する有識者懇談会」が7月25日、国際NGOの抜本的強化を目指して開催された。委員の顔ぶれは国際NGO、大学教授、民間シンクタンク研究員、弁護士、企業人、開発コンサルタント、ジャーナリストなどの有識者13人。筆者もジャーナリストとして参加した。会議の趣旨は、外務省によると「限られた予算の中でODAをこれまで以上に有効かつ戦略的に活用していく観点から、多様な実施主体の力を引き出す必要が高まっている。そのために、ODAに関わる実施主体(開発NGO、民間団体、地方自治体など)をどう強化し、役割分担していくことができるかなどを討議する」としている。

その論点の第1は、NGOの抜本的強化(資金、人材、認知度など)、第2は多様な担い手によるODA事業実施の在り方などである。

外務省によるODAを通じたNGO支援の現状紹介では、(1)わが国NGOとの連携無償資金協力は2017年度で50憶7,000万円の規模で、件数にして113件。(2)ジャパン・プラットフォームへの拠出金(緊急人道支援)は2017年度で58憶2,000万円で、件数にして83件。(3)国際協力機構(JICA)の草の根技術協力はNGO、大学、自治体との共同実施事業を行うもので、2017年度実績(NGO)は9億8,000万円、90件で、ここ4~5年を見るとほとんど伸びていない。以上の状況から、どう見てもODAの中でのNGOは、重視されているとは言い難い。こうした問題も今回の有識者会議で議論されることになろう。

わが国のODAの歴史をたどれば、1950~60年代から、日本の経済復興そして発展に寄与すべく、ODAは円借款協力を中心に経済協力と称されて、その大半はタイド(ヒモ付き援助)の色彩を濃くしていた。国際社会からは「日本の援助は商業援助だ」と非難されたが、そのうちトップドナーになるにつれてヒモ付き撤廃(アンタイド化)に努力した。しかし、その後、長い低成長の中で、再びインフラ輸出に代表されるように国益重視のODAへ里帰りしている。

進化するODAへ

日本もここらで、“進化する援助”の一面を見せるべく、国民参加、市民参加型の国際協力を目指す時代を迎えているのではなかろうか。私たちは、そうした政策指向の下で、広く市民を巻き込んだ国際協力の流れをつくる上でも、NGO、NPOの幅広い役割を見直し、強化する必要があろう。

第3回改定の「開発協力大綱」でも、基本コンセプトとして幅広い「官民連携」を強調している。これを実現するためにもODAの実施に当たり、NGO、NPOとの強い連携が求められる。特に実施機関JICAは、開発コンサルタントのみならず、多様なNGO、NPOとの連携を真剣に検討すべきである。確かにNGOは特徴として専門的な技術力に欠けるところはあるものの、そこはNGOの市民社会的な強みを認識しながら、彼らを援助戦力として育てるという政策的意図が必要であろう。

目を米国に転じると、国務省の米国国際開発庁(USAID)は援助の色々な局面でNGO、NPOを登用している。米国ではNGOをPVO(Private Voluntary Organization)と呼び、無償の緊急食糧援助の80~90%がPVOを通じて実施されてきた。また、米国の対外援助法123条では開発援助(農業、地方開発、人口、保健衛生など)の援助費のうち16%はNGOを通じて支出するよう定められている。

たとえば、NGOが既存のプロジェクトに参加するケースと、NGO自らが案件を発掘してUSAIDに要請するケースなどがある。その場合には、交付金として支出するケースと委託契約のケースがある。ただし、NGO自ら発掘した案件はNGOの自主性を重視して要請案件コストの25%はNGOの自己負担にしているという。

米国は冷戦時代から国家戦略的な政策にもとづいて、教育や保健医療協力を重視してきたが、それは政府直轄ではなく、民間NGO、NPOにその役割を委託してきた。その長い歴史の中で、米国のNGO、NPOが大きく育った。

市民感覚の国際協力

日米にはそうした歴史的違いがあるとしても、日本も後発ながら社会的弱者への関心度が高まれば高まるほど、市民の社会貢献への意識も高まり、なかでも人道意識も深まり、内外にわたる弱者への救済意識にも敏感になろう。

ODA事業においても単に政府だけの事業ではなく、国民参加、市民参加の事業であるという政策的意図を深めていかないと、これからのODA事業への国民、市民の支持を得ることもできなくなるだろう。一方、NGO、NPOにしても市民的発想を失ったら、広く国民の支持を失うことになろう。

最近のODAに対する国民意識、市民意識を測る一つに、本誌創刊50周年で募集した小論文コンテストがある。それは現在、市民が国際協力をどう考えているかを知る一つのバロメーターでもある。

たとえば、「官民連携」というテーマでは、「コンビニを開発途上国のソーシャルアセットとして活用して貧困や災害に負けない強い地域共同体の創造を図る援助」、「インドネシア地方開発のためのODA版ふるさと納税制度試案」をはじめ、「日本の災害援助体験を生かした“国際防災協力”の主流化」、「地方都市部の国際協力がわが国の未来に希望をつなぐ」などがある。

こうした市民感覚を生かすためには、これまでの定型的とも言える援助思想や形態、援助実施機関の古き援助スタイルやシステムでは、新しい時代には対処できなくなっていると言える。「開発協力大綱」でいくら幅広い国民との連携を唱えてみても、ODAの現場が思考停止状態では、新しい流れについていけないし、新しい流れを創ることもできない。

そうした中で、外務大臣自ら出席して「国際協力NGOの抜本的強化」を考える有識者懇談会が催された。これを契機に、なぜ国際協力分野のNGOが欧米のように育たないのか、どうしたら国際級の日本のNGOを育てることができるかといった議論へ深化させて、新しい官民連携への一里塚になってもらいたい。

※国際開発ジャーナル2018年10月号掲載

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