食料自給率3割以下の日本
国連は持続可能な開発目標(SDGs)の1で「貧困」を終わらせ、その目標2で「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」としている。そして、その基盤の上で、目標3(保健)と目標4(教育)の役割が続く。これで人間の基本的な安全保障が確保されることを明示しているのである。
目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」とし、目標4では「すべての人々に包摂的かつ公正で質の高い教育を提供し、生涯学習を促進する」とある。つまり、人間の生存にとって、食料安全保障と教育がいかに大切かを訴えているのである。そこで、今回は食料問題を中心に世界の動向を追ってみたい。
まず初めに、二宮書店発行の「データブックオブ・ザ・ワールド2023」で、先進国を中心に食料の“自給率”を2018年の穀類ベースで見ると次のような状況になる。
(1)オーストラリア239%(以下%略)、(2)カナダ197、(3)フランス176、(4)アメリカ128、(5)スウェーデン102、(6)ドイツ101、(7)イギリス87、(8)スペイン71、(9)イタリア63、(10)スイス45、(11)日本28。
まず、日本の食料自給率が3割にも達していないことがわかる。食料を巡る日本の安全保障が、いかに最悪の状態かが明白になってくる。これから日本は食の安全保障をどこまで担保できるのか、将来への食料安全保障が大いに懸念される。その他でも、魚介類でも日本はオランダ、カナダ、スウェーデン、英国/米国、スペインに次いで6番目である。それを漁獲量で見ると、(1)中国、(2)インドネシア、(3)ペルー、(4)インド、(5)ロシア、(6)米国、(7)ベトナム、(8)日本という順序になる。これは海洋大国、漁業大国日本のイメージとは掛け離れた状況にあると言える。
つまり、日本は人間が生きていく基本的な条件において、最悪の状況にあることをどこまで自覚し、将来へ向けてどう対応しようとしているのか、軍事的な防衛力のみならず、より基本的な“食の安全保障”にどこまで対処しているのか、不安が深まる。こうしたその日暮らしの状況は、貧困に苦しむ開発途上国のその日暮らしと本質的に同類ではなかろうか。日本が“食の安全保障”で、これほど無防備な状態だとは驚嘆するのみである。
途上国の食の安全保障
それでは次に、世界に目を向けながら、特に途上国の食の安全保障について触れてみたい。なにしろ、その人口規模が大きいだけに、“食の安全保障”が最大の問題になっている。2021年ベースで見ると、途上国人口が約66億3,300万人(先進国は12億7,600万人)、先進国の約5倍以上の規模であるから、“食の安全保障”が最大の問題であると同時に、最大の難問でもある。
「コメ(米)」の生産規模を見ると、2020年ベースでその生産比率はアジアの89.4%に対して、貧困度の高いアフリカは5%に過ぎず、「小麦」の場合はアジア45.7%に対してアフリカは3.3%で、ヨーロッパの33.5%、北米の11.6%より生産量が驚嘆するほど少ない。
ところが、「アワ」「トウモロコシ」の場合は、アフリカ46.3%で、アジア28%、北米16.4%、南米6.6%より優位に立っている。
日本の政府開発援助(ODA)では、国際協力機構(JICA)が中心になって、包括的なアフリカ農業開発プログラムを展開している。JICAによると、サハラ以南のアフリカ地域人口の60%以上は、小規模農家で、肥料、種子、貯蔵や灌漑設備が不十分で、必要とする食料生産量を満たしていない状況だと言う。そのため、JICAでは「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」を提唱し、その下でコメの生産拡大を目指し、市場志向型農業の振興(SHEP)に取り組んでいる。
まず、第1フェーズではコメの生産量を2008年からの10年間で、1,400万トンから2,800万トンへと目標通りに達成している。第2フェーズでは2030年までに生産倍増を唱えて5,600万トンを目指している。こうした協力がアフリカの稲作を飛躍させるものと見られているが、そうした中で、現在の5%程度の生産量を倍増させ、将来大きく発展する土台をつくっていくものと見られている。
命綱の換金作物
一方、稲作以外の分野に目を向けると、生活を助けるものとして、雑穀と言われる「アワ」や「トウモロコシ」がある。これらはアフリカの庶民にとっては主食である。その生産量はアフリカが46.3%で、アジア28%、北米16.4%、南米6.6%を大きく引き離している。さらに、「キャッサバ」の生産量も、アフリカが64%で、アジアの27%、南米の8.3%と、そのギャップは大きい。とにかく、「アワ」「トウモロコシ」「キャッサバ」などは現在、アフリカの庶民生活にとって大切な食料源となっている。
他方、途上国には食料以外で、生活を支える換金作物がある。次にそれを紹介してみたい。たとえば、「ナツメヤシ」はアジア56.3%、アフリカ42.7%の生産シェアを占めている。「バナナ」はアジア54%、アフリカ17.7%、南米15.8%。「カカオ豆」はアフリカ68.4%、アジア13.5%、南米14.7%、北米2.6%。「コーヒー豆」は南米46.8%、アジア30.6%、アフリカ12.1%、北米10.2%。「サトウキビ」はアジア62.6%、アフリカ32.2%。
多くの途上国では、時に換金作物が食料生産を阻害することもあるが、アフリカなどでは外国資本の進出で、小作農家を圧迫するケースもあり、その国の農業の発展に悪い影響を与えることもあると言われている。以上、いろいろな角度から世界の食料事情を見てきたが、食料の自給率向上は国家の安全保障にも深く関わっており、多くの途上国にとって悩み尽きない問題でもある。
かつて日本では、総合商社を中心にトウモロコシ、大豆などの「開発輸入」事業として、東南アジアや中南米に進出した時代があったが、最終的には撤退を余儀なくされている。
工業部門に比べ、農業部門の海外進出は人智の及ばない自然環境に左右されるため、事業としての成功率は極めて低いと言われている。
一口に自給率の向上と言っても、資本力は言うまでもなく、技術力、生産制度などが大きく遅れているアフリカをはじめとする多くの途上国にとって、至難の課題だと言える。
国連がSDGsの第2目標(飢餓への対応)として食料安全保障を掲げたのも、農業部門の難しさが、その背景に潜んでいるからであろう。だから、食料安全保障を担う国際協力ほど難しい協力はない。しかし、挑戦に値する国際協力ではなかろうか。
※国際開発ジャーナル2023年6月号掲載
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