世界経済をリードする国は米国か中国か 世界はどう見ているか|羅針盤 主幹 荒木光弥

中国の経済大国観

中国の習近平国家主席(総書記)は、10月18日に開幕した中国共産党大会で「総合的な国力と国際影響力で世界をリードする国家になる」という方針を打ち上げた。

たとえば、米中の国内総生産(GDP)を世銀の2016年ベースで見ると、世界第1位が米国で18.6兆ドルに対して、第2位の中国は11.2兆ドルと、かなり肉迫している。強国への条件である同年ベースの軍事費を見ると、米国が6,112億ドルで、中国の2,152億ドルをかなり引き離している。しかし、中国軍の近代化を見ると、間もなく5,000億ドルへ近づくものと見られている。

そこで、去る7月付けで発表した米国ピュー研究センターの世界の「経済大国」あるいは「覇権国」に関する米中比較世論調査結果にもとづいて、世界は米国を、そして中国をどう見ているのかを展望してみたい。

(1)まず、米国民は中国が現時点において「世界最大の経済大国」と見ているかどうかの比率は35%にとどまり、半数に当たる51%の米国民は米国がナンバーワンだと思っている。ただ、別の見方からすると、米国民の半数しか世界一の経済大国であると認めていないことになる。

それを日本の認識と比べると、日本では米国を世界一の経済大国と認めている比率は62%で、一方、中国を世界一の経済大国と見る比率は19%と極めて低い。ちなみに、中国に対して一番低い認識を示している国はインドで、その比率は11%である。

次いで、ベトナムとブラジルが17%と低い。ベトナムは地政学的にも、過去の歴史からも、中国を脅威と見ていることは理解できるが、他方のインドといいブラジルといいトップクラスの新興国が、中国の存在が大きくなるのを歓迎していないようにも見受けられる。これは、たぶんにライバル意識が働いているからであろうか。

EUの中国経済大国観

(2)次に面白い傾向を紹介してみたい。今度は中国をかなり高い比率で経済大国と認めている国々を見ると、なんと自由・民主主義の旗頭であるEU主要国である。中国を経済大国と認める比率(%)は、スペイン(48)、フランス(47)、英国(46)、スウェーデン(42)、ドイツ(41)、イタリア(40)である。

こうした傾向からわかるように、EU主要国は中国を、米国よりも大きく世界をリードする経済大国であるとの認識を示しているようである。この調査では米国を世界一の経済大国と認める比率は、スペイン(35)、フランス(37)、英国(31)、スウェーデン(40)、ドイツ(24)、イタリア(40)と低い。

だから、ヨーロッパ主要国が中国の提唱したアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟にいち早く応じたことがうなずける。そして、AIIBの戦略思想でもある中国の「一帯一路」構想にもいち早く飛びついた。それはユーラシア大陸の発展が、ヨーロッパの発展に直結しているという考え方に立脚しているからであろう。習近平国家主席が「総合力で世界をリードする」と豪語するのも、米国に匹敵する経済力を持つようになるという意味でわからないことはない。次に「中国を、世界をリードする経済大国」と認める世界的な傾向を見ても、米国(42%)に対し中国(32)が徐々に肉迫している。

ただし、それは習近平体制が5~10年のタイムスパンで国民に支持されての話でもある。

(3)一方、アジア地域だけに絞ってみると、米国対中国の比較では、韓国は米国(66%):中国(27)で、以下同じく日本(62):(19)、ベトナム(51):(17)、フィリピン(49):(25)、インド(42):(11)、インドネシア(39):(22)というように、まだ米国への経済的依存度の大きいことが反映されている。それは、またアジア地域の安全保障という観点から見ても、米国を世界第一の経済大国という位置付けにしなければならない、という運命共同体的発想にもとづいたものと見られないこともない。

インドシナ半島への圧力

アジアは地政学的に見ても、中国の経済発展のエネルギーは大陸内に収まらず、西沙や南沙諸島に見るように東シナ海を南下して、東南アジアの内陸国は言うに及ばず、東南アジアの海洋諸国にも、経済力だけでなく軍事力でも大きなインパクトを与えるようになるのではないかと、将来を懸念する見方が強い。しかし、中国経済の近隣内陸国への経済的インパクトは年々高まっている。

たとえば、一番良い例として、もともとアジア開銀の大メコン圏開発(GMS)として進展していた経済回廊計画が、中国の雲南省―ラオス―タイの一帯一路計画へと変貌しようとしていることが挙げられる。

また、タイ企業と中国企業との戦略的な提携関係を見ても、2008~2017年間で、資源エネルギーで4件(この中には原子力発電関係が技術協力と業務提携で2件含まれている)、自動車とその関連で8件(高速鉄道計画や電気自動車2件が含まれている)、情報通信5件(中国のアリババ集団との資本提携が注目される)、不動産や工業団地造成で4件(この中にはインド洋側のダウェー港開発で中国鉄路工程集団との業務提携が交わされている)、金融・保険で3件となっている(学習院大学国際社会科学部教授・末廣昭氏の資料参照)。

以上はタイと中国との深い経済関係を示すものだが、海上の一帯一路構想の一環として、日本の政府開発援助(ODA)が大量に投入されたタイの東部臨海工業地帯で重要な役割を果たしているサッタヒープ港は、カンボジアのシハヌークビル港、ベトナムのブンタオ港とともに、中国海洋戦略の重要な要衝になるものと見られている。

筆者は1970年代のタイで、華僑総商会会長と会ったことがあるが、その時会長は、誇らしげに毛沢東、周恩来の発言を掲載した華字新聞のスクラップを筆者に見せて、「中国共産党政権は海外の多くの華人にも、中国人としての誇りを与えている」と語っていたことを思い出す。

次に、別な見方をするとタイのように、これから中国経済が海外華人のネットワークと効果的にかみ合っていけば、大きな相乗効果を発揮していくものと推測される。

その意味で、アジアの華僑と言われる在外の華人集団の存在も、大陸中国の経済大国化に大きな役割を果たして、決して無視できない存在となろう。

すでに、タイの隣国カンボジアもラオスも大量の中国マネーに踊らされている。国境を接するミャンマーも、徐々に中国マネーの浸食を受けている。

※国際開発ジャーナル2017年12月号掲載

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