ピーク時の電力不足解消に向けて
施主と受注企業が一体となって工期内に完工
西ベンガル州の電力事情
インドでは、1990年代の経済成長に伴う急激な電力需要に対応できる電力設備の不足が大きな課題となっていた。また、コルカタを州都とする西ベンガル州では、出力規模は大きめだが需要に応じた発電出力調整には不向きな石炭火力発電が供給力の9割超を占めるアンバランスな電源構成も課題となっていた。
これらの課題解決に向け、西ベンガル州営電力公社(WBSEB、現WBSEDCL)により、プルリア揚水発電所建設が計画された。揚水発電所とは、他の発電所の余剰電力で下池から上池へ水を汲み上げておき、平日昼間・夕方電灯点灯時などの需要が増加する時に、上池から下池へ水を導き落とすことで発電する水力発電方式で、需給バランスに応じた細かな発電出力調整が可能な水力発電所である。
プルリア揚水発電所の工事概要
本プロジェクトの建設資金は、日本の国際協力銀行(JBIC、現JICA)の円借款資金が当てられた。工事の施工は土木工事が大成建設、ゲート鉄管工事は三菱重工業、主要電気機械は三井物産・東芝、電力ケーブル工事は丸紅・ジェーパワーシステムがそれぞれ受注した。コンサルタント業務は電源開発㈱(J-POWER)とインド国営コンサル会社のWAPCOSとのJVが実施した。
本プロジェクトの計画諸元は別表に示す通りである。本体土木工事は2002年3月に着手後、当初計画通り08年1月に単機出力225MWの揚水発電機4台(合計900MW)が無事完成し、運転を開始した。土木工事の工期は59ヶ月、最終号機運転開始までの全体工期は70ヶ月であった。
工事が行われた6年間は、頻発する労務者のストライキや国全体の急ピッチなインフラ整備による慢性的な資材不足、また、モンスーンによる交通遮断から生ずる調達の遅れや熟練労働者の不足等々、工事遅延に直結する要因が数多く発生した。しかし、本プロジェクトは円借款の一般アンタイドにも関わらず受注企業が全て日本企業であったこと、地質条件に恵まれたこと、そして発注者であるWBSEDCLを中心とした工事関係者の強い意志があったことが最大の要因となって、工期を厳守することができた。関係各位の努力には改めて敬意を表したい。
完成後のプルリア揚水発電所は順調な運転を続けており、地域の電力事情の改善に大いに貢献している。
現地におけるCSR活動
J-POWERは、現地駐在中、地元に対してさまざまな社会貢献活動(CSR)を行った。
まず、山間部の少数民族の子女が通う学校の電化に必要な配電用変圧器を寄贈した。在コルカタ日本総領事館を通して外務省「草の根援助」資金の調達をサポートし、同校校舎の新築も支援した。
また、地元の診療所には、医薬品の保存や熱中症の患者を冷やす氷を作る冷蔵庫を寄贈した。この診療所は、現地施工監理事務所の近傍にある地域唯一の病院であった。医師はアシスタントを含め3名、看護婦が6名体制で、この地域に住む12万5千人の保健衛生と、毎日500人もの患者の対応に追われていた。診療所の設備の改善に少しでも役立てればと考えて実行したものである。ささやかではあるが、このような活動に対して地元住民から感謝されたことも良い思い出となっている。
寄稿:電源開発(株) 国際営業部技術室
コンサルティング:電源開発株式会社(J-POWER)
『国際開発ジャーナル2020年1月号』掲載
(本内容は、取材当時の情報です)
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