「プノンペンの奇跡」を地方都市にも 浄水場を拡張し安全な水を安定供給
上水道施設整備で給水率90%に
カンボジアでは、1991年に内戦が終結して以降、日本などのドナーによって、首都プノンペン市の上水道施設の整備や施設の運営・維持管理のための人材育成といった多くの支援が行われてきた。これらの支援により、同市では24時間給水が可能となり、2010年には給水率90%、無収水率6%を達成した。
こうした劇的な変化を見せた同市の水道改革は、「プノンペンの奇跡」と呼ばれている。その一方で、首都以外の地方都市を見ると、給水能力は依然として低く、安全な水が供給できていない。
そこで同国政府は2003年、「水供給および衛生に関する基本方針」で、人々が安全な水の供給を受け、安心で衛生的かつ環境に適応した生活を享受するための方針を発表した。さらに、06年に策定した「国家戦略開発計画」(NSDP)でも、15年までに都市人口の8割が安全な水にアクセスできるようにすることを目標に掲げ、水道セクターの整備などに取り組んできた。
地方給水分野では、同国第3の地方都市であるコンポンチャム市と第1の地方都市であるバッタンバン市で、アジア開発銀行(ADB)が支援して2006年に水道施設を拡充した。国際協力機構(JICA)も、07~12年にわたり、先の二つの都市を含む8つの地方都市の水道局職員の能力向上を目的とした技術協力プロジェクト「水道事業人材育成プロジェクト・フェーズ2」を実施した。
このように、ハード・ソフト両面から給水能力の向上を図ってきたが、コンポンチャム市とバッタンバン市の給水率は2011年時点においてもそれぞれ33%、31%にとどまった。
貧困層への給水にも配慮
給水率をさらに高めるには、地方都市でも上水道施設の改善が急務だった。このためカンボジア政府は2010年、日本政府に対して今回の無償資金協力「コンポンチャム及びバッタンバン上水道拡張計画」につながる支援要請を行った。これは、両市の上水道施設の拡張を通じ、2019年までに両市の給水率を84.8%に向上させることを目的としている。
本プロジェクトによる浄水場や取水施設(取水ポンプ)、導水管、送水管、配水管網などの施設整備は、2016年に完工し、同年7月21日に竣工式が開かれた。これにより、コンポンチャム市の浄水場は1万1,500㎥/日、またバッタンバン市の浄水場は2万2,000㎥/日と、給水量が大幅に拡大した。
事業を進めるにあたっては、貧困世帯向けの給水管や水道メーターなどの給水装置も本プロジェクトの対象に含めるなど、全ての住民に水を届けられるよう配慮された。また、給水量の拡大に伴い必要性が増す維持管理費用についても、現地の政府高官や住民に説明し、実施機関である公営水道局による水道料金の改定も促した。その結果、公営水道局の経営状況は安定しつつある。
上水道施設の拡張により、乾期に地下水位や河川水位が大きく低下しても、安定して地域住民に給水することが可能となった。こうした給水率の向上は、水因性疾患数の減少など、公衆衛生環境の改善にもつながっている。
さらに、地域住民にとっては、生活用水を確保するための労力も大幅に削減されることになった。これにより、女性の雇用が促進され、子どもの就学率が向上することが期待されている。
コンサルティング:(株)日水コン、北九州市上下水道局、(株)建設技研インターナショナル
施設建設:(株)クボタ工建
『国際開発ジャーナル2018年11月号』掲載
(本内容は、取材当時の情報です)
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