水道事業の持続性を支える人材育成と技術移転
南スーダン・ジュバ市における技術協力プロジェクトを通じた組織能力強化の実践
南スーダン国ジュバ市は、急速な人口増加に水道施設が追い付いていない状況であった。そこで、無償資金協力事業で給水施設が建設された。本プロジェクトは既存施設を含め、施設の安定的な運営を支えるため、南スーダン都市水道公社(SSUWC)の組織体制・業務能力を強化すること、また住民に信頼される水道サービスの構築を目指した。
最も苦労したのは、計画と現実の乖離への対応である。3年間で現地通貨の価値が7分の1に急落、それに伴う急激なインフレ、12か月に及ぶ給与未払いにより、職員の士気が著しく低下し、組織運営にも大きな影響が出た。計画通りに物事が進まない状況で重視したのは、机上の理想ではなく「ともに考え、ともに悩む」姿勢である。
例えば、モチベーション維持のため、出勤実績に応じた手当制度を新設し、勤怠記録の一括管理で改ざん防止を図った。また、浄水場の維持管理の計画を策定し、共に実施してきた。薬品注入の管理や残留塩素の測定体制を、現地のスタッフと見直すことで、水質基準の遵守率も改善された。事業終盤には、本部・ジュバ支所職員が講師となって全国の支所向けに技術移転セミナーを実施するまでに至った。
現場で私が常に意識していたのは、「制度よりも、人が動く仕組みをどうつくるか」。複雑な仕組みではなく、現地の実情に合った“続けられる工夫”を重視してきた。プロジェクトは今年2月に完了したが、水道を取り巻く課題は依然多い。これまでの支援を通じ、現場の職員が自ら課題を見出し、試行錯誤しながら改善に取り組む文化が少しずつ根づいてきた。今後はSSUWCが主体となり、持続的な運営と成長に向けて、歩みを進めていくことを期待している。
プロジェクトギャラリー

水の大切さを伝えるステージイベントの様子

水の安全管理を行う現地スタッフ

南スーダン都市水道公社(SSUWC)との会議

ジュバ市に新たに整備された浄水場
プロジェクト担当者
株式会社 東京設計事務所 グローバル事業部コンサルティング第2チーム
山田 紹子さん(やまだ・しょうこ)
文系大学卒業後、東京設計事務所海外部(当時)に入社。入社後2年間は国内にてプロジェクト支援業務に従事、3年目より上下水道分野の海外プロジェクトに参画。環境社会配慮からキャリアを開始し、経済・財務分析、住民啓発、水道事業運営など、関心と専門性の幅を着実に広げている。
※国際開発ジャーナル2025年8月号掲載