国内二件目の遊水地建設を現地業者と実施
広大な用地を要する洪水調節施設について繰り返し説明をしながら施工
フィリピンでは年平均約20の台風・熱帯低気圧の到来により水害が頻発し、毎年数百人単位の被害者が出ている。水害対策は国家開発戦略の一つに挙げられ、日本は技術・経済支援を継続的に行ってきた。
首都マニラの衛星都市として人口増加と開発が加速するカビテ州では、国際協力機構(JICA)支援による洪水対策マスタープランを2017年に制定。翌年末からは現地政府発注の現地業者による遊水地建設事業が始まり、当社は施工監理に従事した。
本件は同国二件目の遊水地事業だが、発注者、施工業者、事業地周辺の自治体関係者や住民、当社施工監理チームのフィリピン人スタッフもほぼ実物の遊水地を見たことがないという課題があった。日本の遊水地事例を用いた3D図面やイメージ動画を駆使して「遊水地とは何か。遊水地がある
ことでなぜ洪水被害が軽減するのか」と説明した他、一件目の遊水地の現地視察などを通して理解促進・情報発信に努めた。
さらに、建設中に大量発生する掘削残土を円滑に搬出するための受け入れ先の事前手配、土地収用や住民移転の促進に配慮し、近隣自治体や住民、工業団地参加企業への説明には特に注力した。
実際には、度重なる土地収用の遅れや、マイペースな現地業者に苦闘しつつ、複数回の工期延長を経て2023年末に面積41haと20.3haの2カ所の遊水地建設が完了。その大きさゆえに、まさに「地図に残る仕事」となった。
昨年10月、台風が同国を襲った際には河川からあふれた水を一時的に貯め、初めて洪水調節の機能が発揮された。今後は維持管理運営を徹底して継続的に洪水調節の役割を果たし、地域住民に前向きに受け入れられる遊水地となることを期待したい。
プロジェクトギャラリー

遊水地全体図

住民・ステークホルダーへの説明の様子

建設途中の遊水地

完成後の遊水地

昨年10月に洪水が発生した時の様子
プロジェクト担当者
株式会社建設技研インターナショナル
防災部 日下 浩二さん(くさか・こうじ)
2000年に当社に入社。東南アジア、中東、アフリカの災害対策事業などに参画後、フィリピン洪水対策案件の施工監理に従事。日本タイドのSTEP案件に限らず、他国施工業者も参画する国際競争入札案件、現地業者のみを入札対象とした現地政府案件も経験。
※国際開発ジャーナル2025年9月号掲載