いびつな構成
「8:1:1」という表示は、わが国の政府開発援助(ODA)予算規模を表したものである。8とは円借款が全体予算の80%を占めていることを示すもので、日本のODAがいかにいびつな内容になっているかが分かる。残る1とは10%のことで、技術協力と無償資金協力である。
こうした実態は言うまでもなく、日本の財政難を反映したもので、80%はざっと言って、税収以外の政府財投資金(郵便貯金、年金など)を充当している。
ただ、現在は過去の円借款返済金が年間約6,700億円にも達しており、金利も1,700億円ほどになっている、と見られている。だから、円借款資金の方は、こうした返済金を回転させることで、財源確保を楽にしていると言える。
ところが、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)原則では、こうした返済金が日本の援助総額から差し引かれて計算されるものだから、援助総額では実質的に米国に次ぐ第2位であっても、実際のランキング付けでは世界第5位にその地位を落としている。
こうした背景には、伝統的にODAは原則無償という欧米の考え方が尾を引いている。ただ、DAC加盟を拒んだ新興諸国は原則投資という考え方に立っている。時代の流れは皮肉である。
次いで、先に述べたように、1の表示とは10%を意味する。技術協力も無償資金協力も税金に依存する一般会計予算で賄われている。今の日本は福祉予算などの増大で、一般財政が火の車である。だから、無償資金協力は1987年のトップドナー時代に比べてほぼ半分の規模へと激減している。
財政筋によると、日本の負債状況から考えて、無償資金協力や技術協力が昔に復元されることはないと見られている。
魅力的な円借款とは
そうなると、一つの工夫として、円借款が相手国により魅力的なものになるように仕立て上げる必要がある。今、円借款の貸付け条件を大きく緩和しても、国際的な資金調達環境が良くなっているので、多くの開発途上国は時間と手数のかかる円借款という政府借款に飛び付かなくなっている。
だから第一に、いかに借款手続きをより一層簡素化するか(少なくとも民間金融並みに)。第二に、借款付帯サービスとして、技術協力に伴う人材育成など技術移転、付帯する新しい開発計画立案などの政策支援などをどこまで提案できるか。第三に、必要であれば民間企業との連携、誘致なども絡ませる。とにかく相手国に開発資金だけを貸し付ける単純な政府借款では、今の開発途上国のニーズにマッチしていない。
その意味で、現在の国際協力機構(JICA)の円借款事業は一直線すぎて、相手にとって借款の付加価値があまりにも低すぎるのではないだろうか。円借款業務の範囲内での金融的工夫は確かにある。
たとえば、専門的だが、①エクイティ・バックファイナンス(EBF)―開発途上国政府や国営企業などが出資するインフラ整備事業に対して、出資金のバックファイナンスとしての円借款供与、②バイアビリティ・ギャップ・ファンディング(VGF)―日本企業が出資するインフラ事業において、相手国政府が主に事業期間を通したキャッシュフロー平準化のために助成する円借款供与、③PPPインフラ信用補完スタンドバイ借款―民間事業者の生産物を購入するオフテイカーが、民間事業者への支払いを何らかの理由で履行できない事態が生じた場合、開発途上国政府がオフテイカーへの資金供与、または、民間事業者への保証履行に充当する資金をJICAから開発途上国政府へ融資するためのコミットメント・ライン契約を事前に結ぶものなど。これらはPPPインフラ事業への円借款活用として登場している。
知恵の国際競争力
だが、それだけでは国際入札商戦において磐石な構えとは言えない。たとえば、金融の対象であるプラン、プロジェクトづくりに関わる人材の育成、さらには、プラン、プロジェクトの将来計画立案にもサービス範囲を広げ、国際競争力を高める必要がある。
そう考えてみると、技術協力はODA全体の10%どまりでありながら、円借款の救世主にもなり得る特性を有している。繰り返すようだが、政府金融の魅力は、先にも述べたように知的サービス付きでないと競争力が低下する。だから、技術協力の得意ワザとしての人材育成やマスタープランなど計画立案能力が一番問われることになる。
その場合、円借款協力に先行する形で、開発計画の総合開発計画案をつくることがやはり王道であろう。それは日本人だけで総合開発計画をつくるだけでなく、相手国の計画づくりの人材育成も同時に実施することである。そうすると、円借款供与計画の付加価値が大きくふくらむことになる。
しかも、日本によって教育された相手国の人材が日本のマスタープランづくりになじんでくると、日本と相手国政府の計画立案担当者との距離も縮まる。こうした環境が深まれば、円借款への新しい認識も生まれて、いわゆる円借款を土台にしたインフラ輸出環境も好転していくことだろう。
好むと好まざるとにかかわらず、ODAの80%を占める円借款協力を開発途上国全体に広げて、多くのお得意さまを獲得していくためには、技術協力部門や無償資金協力まで総動員して、立体的な協力体系を組み直すことである。
そうした土台をつくるには、日本国としての一つの援助目標(プロジェクト)に向かって、JICAの各実施部門(有償資金協力、技術協力、無償資金協力)が各部門の予算規模でその立場や優劣を競うのでなく、各部門の意義と意味を相互に尊重し合って、一致団結することである。とにかく80%の予算シェアをもつ円借款協力だけで本来の援助目的は達成できないことを銘記してもらいたい。
※国際開発ジャーナル2015年8月号掲載
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