スピードとタイミング
もう20年前になるだろうか。ワシントンの米国国際開発庁(USAID)の紹介で、10社近い援助関係の開発系コンサルタント会社のトップとインタビューした。その時、包括的で長期的なコンサルティング契約方式のIQC(Indefinite Quantity Contract=包括契約)が大きな話題になった。
想い出すと、開発コンサルタントに対し開発途上国にどのくらい精通しているか、また、どのくらいの経験を有しているかなどの基準に沿ってIQC制度を適用して、3カ月ぐらいの短期決戦型のカントリー・スタディーをほぼ指名に近い形で発注していた。それは、短期調査ゆえに時間のかかる一般公開入札にしない方法をとったという話だった。「援助はスピードとタイミングですよ」とUSAIDスタッフは語っていた。
おそらく日本では、援助を実施する側が会計検査を恐れているのか尊重しているのか分からないが、すぐ鋳型にはめ込んだような公正、公平基準を持ち出すものだから、臨機応変の新しい援助システムを創れと言っても難しい提案かもしれない。だが、日本でも公平性を担保した援助特有の入札システムを創ることができれば、会計検査院を納得させる可能性も出てこよう。
日本も公正、公平を担保した、スピーディーで、タイミングよく実施できて、その上、日本の政府開発援助(ODA)の国際競争力を強化することのできる、USAIDのIQCのような入札システムを創設して、援助のスピードアップ、コンサルタントの専門性強化、そして最終的にはコンサルタント企業の育成を政策的に進めることを目指すべきではなかろうか。
USAIDでは、開発コンサルティング企業をちゃんと育てないと、援助の国際競争力を高められないという政策を確立している。そのために、コンサルタント採用では長期契約方式を技術協力で採用すべく、先に述べたIQCが活用されている。
米国のIQCシステム
それでは、次にIQCを少し紹介してみよう。
米国AIDは技術協力分野において、競争入札で選出された数グループ(3から6ぐらい)のコンソーシアム(企業共同体)と長期の包括契約を締結し、実際の業務は、このコンソーシアムに組み込まれている開発コンサルタントに発注される。
契約は通常5年の長期であることから、コンサルタント雇用のための発注コストは高くなるものの、コンサルタント企業の経営を安定させる効果がある。
さらに、長期契約の場合、米国のコンサルタントは長期間にわたって被援助国にとどまることが可能になり、その国の次への新しい開発援助ニーズを探り出すことも可能になる。また、当該国での米国大使館の商務担当アタッシェとの情報交換も緊密になり、援助ニーズ分析に関する情報交換も進展すると言う。なお、米国IQCは主に環境、エネルギー、都市開発、民営化、金融セクターなどのさまざまな技術協力業務をカバーしている。とにかく、IQCシステムは自国のコンサルタント育成と経営安定化に大きな役割を果たしている。
米国AIDの開発コンサルタント育成方針によると、一つは、これまで述べてきたIQCによる長期契約システムによるものである。二つは、開発コンサルタントへの発注方式を「プロセス重視」から「成果重視」へ、つまり「仕様重視発注方式」から「性能重視発注方式」へ切り替えて、開発アイデア・ノウハウや開発方式のイノベーションなどの面で、米国の開発コンサルタント企業の質的な向上を促し、結果的には国際競争力を向上させて、グローバル化、ネットワーク化を可能にし、総合的な開発ソリューション・アプローチを提供できるようなコンサルタント企業へと成長させているとの報告がある。
日本でも、米国のように国際協力機構(JICA)など援助機関でも、国際的な開発コンサルタントを育てるという政策的意図を強くもって、発注システムを改善する必要があるのではないだろうか。
成果重視の制度設計
まず第一の改革は、援助案件(技術協力)発注における現在の複雑な手続き重視、チェック重視という「プロセス偏重」から開発コンサルタントの能力と構想力を引き出し、育てるような「成果重視」、「成果志向」を引き出せるような入札業務に切り替える必要があるのではないだろうか。発注するJICA側は成果や結果の評価やモニタリングを重視する制度設計に力点を置けばよいのである。それによって職員の疲労度も軽減され、組織的活性化が図れる可能性が高くなる。
開発コンサルタントにとっても「成果重視」はその実力がもろに問われるので、「プロセス重視」のような“ぬるま湯”につかっているようにはいかない。厳しく能力が問われる。場合によっては、この分野から消滅するコンサルタント企業も出てくるかもしれない。国際競争に打ち勝つには、受注する側も発注する側も相当な気合いを入れて世界に挑戦しないと、後から追ってくる新興国群にも負けてしまう恐れがある。
発注する側と受注する側との相関関係においては、なんと言っても発注者側の発注システムのイノベーションをエネルギッシュに断行する必要がある。発注者側が責任を取るのでなく、受注者側に責任を取らせることによって受注者側である日本の開発コンサルタントの実力は飛躍的に伸びるのではなかろうか。
発注者のJICAは、発注に際しての「プロセス志向」(細かい手続き制度)から脱出して、「成果志向」の発注手続きに一刻も早く切り替えるべきであろう。
現下では、システムをさらにサポートするシステムを造り、それに追い回されているような業務体質だと言えないこともない。
こうした流れは少しも生産的ではない。できるだけ規模の大きなプロジェクトを創って、大きな成果を出して、国威発揚を図れるような実施システムを構築しないと、人びとに税金のムダ遣いだという批判を浴びる恐れがある。制度改革を前向きに捉えると、日本の開発コンサルタント企業の経営力、技術力、創造力も向上するはずである。
※国際開発ジャーナル2015年9月号掲載
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