檜舞台のコンサルタント
開発コンサルタントへの期待感が過去に例を見ないほど高まっている。外務省やJICA(国際協力機構)のODAによる中小企業支援(市場調査、事業調査など)では、調査支援が1,000万~5,000万円の規模に達しているために、その適用を受けるにはルール通りのプロポーザルを提出しなければならない。
ところが、各地の中小企業はこれまでODAビジネスに無縁のために、正規のプロポーザルを書くことが苦手である。そこを手助けするのが、ODA調査事業に精通する開発コンサルタントである。
外務省は各地でODAによる中小企業支援のための説明会を催した。その時、プロポーザルは開発コンサルタントとペアを組んで提出するよう求めた。だが、各地の中小企業は開発コンサルタントの存在を知らない。その際、外務省はその役割と業務形態を説明するのに四苦八苦した様子である。それでも日本各地の地方行政、中小企業群は、自らのビジネス展開と深く関係することもあって、好むと好まざるにかかわらず、その存在を知ることになった。これは、ODA分野にとっても大きな収穫であったと言える。
以上は、ODAによる中小企業支援で地域振興にも役立てるという、いわゆる国際協力の内外一体化政策の一環であると言えるが、全国各地の中小企業が開発した環境関連技術などは高い水準のものが多く、日本の優秀な技術力を背景に国際協力を有利に展開できるのではないか、という自信を得ることができた。あえて言うと、JICAはこれまで日本各地の潜在的な技術力にあまり注目してこなかった。これを契機に、中小企業の開発した技術力を技術協力などに生かすべきであろう。
他方、わが国経済界もお世辞にも開発コンサルタントの存在価値を知っているとは言い難い。仮にその存在を知っていたとしても、JICAに付属するODA専門調査会社のように思っている人も多い。
だが、6月に公表された日本経団連提言「インフラ輸出の競争力強化を図り、わが国の成長につなげる」では、インフラ案件の発掘と形成を推進するものとして、コンサルタントの役割の強化、育成が強調されている。特に、パッケージ型インフラ輸出の強化は、わが国の成長戦略に組み込まれている。こういう脈絡で考えてみると、コンサルタントはいよいよ日本経済という檜舞台に踊り出たのである。それはODA分野を越え、日本を代表する一つの産業分野の資格を得たことを意味する。
提言では、「JICAによる民間コンサルタントの積極活用(PPP案件、円借款案件の詳細設計)と、これらを通じたコンサルタント育成の強化が必要である」と述べ、たとえば、マスタープラン作成、事前調査(F/S)を手掛けたコンサルタントが詳細設計(D/D)を一括して担当すること、さらには有償資金協力(円借款)勘定の技術支援費を原資とする技術協力という形で携わることができるようにすべきである。
これら取り組みを通じてわが国企業の強みを発揮できるD/Dを相手国に提供することが可能になる、としている。さらに、提言は好意的に「プロジェクト形成の要となる本邦コンサルタントの高齢化と減少が進んでいることから、後継者となる若手育成に重点的に取り組むべきである」と警鐘を鳴らしてくれている。
注目されるマスタープラン
以上のように、日本経団連レベルでもコンサルタントの果たす役割を確実に掌握している。しかも、従来のODAの発想から一歩前進して、Win-Winを前提とした戦略的なパッケージ型インフラ輸出という実業の世界で勝負して欲しい、と注文を付けている。
筆者は、昨秋開かれたあるコンサルタント研修会で講演した時、「虚業から実業へ」をテーマにした。たとえば、ある開発計画を立案設計した時、それが机上の作業ではなく実現可能な収益性を念頭に置いたものでないと、その計画は現実において役に立たないことを強調した。
無償の資金協力や技術協力コンサルティングの場合、設計の段階で厳しく収益性を計算して、プロジェクトの有効性を考える必要性がない。ただし、同じODAでも円借款協力ではプロジェクトが成功しないと、貸した資金が回収されない恐れもあるので、その損益計算は厳しい。
ところが、開発コンサルタントの多くは、いまだに返済を求めない無償レベルのプロジェクトだけに関わることが多いので、案件形成からフィージビリティー調査、実施設計を通して“ワキの甘さ”が目立つ。プロジェクトはそこそこ稼動すれば、形式的には責任の問われないケースが多々ある。相手国も“もらいもの”であるから、その成果をそれほど厳しく問わない。
こうした環境下では、ODA事業の計画に対する“甘え”が生まれ、結果として協力する側に成果への厳しさがなくなり、それが開発コンサルタントの能力を低下させていく恐れがある。
実業の世界は極めて厳しい。常にコストや収益と対決しなければならない。事業を興すに当たって“甘え”は一切許されない。しかも国際入札では、単にコスト計算だけの勝負でなく、発注者側との水面下でのコミュニケーション、取り引き、駆け引きなど、いろいろな能力が要求される。また、スピード感覚も必要になる。“生き馬の目を抜く”がごとくである。それが実業の世界の現実だ。
大型案件の重要な仕掛けとして、わが国の経済界はODAによるマスタープランづくりに期待を寄せているが、ここでも鋭い先見性や実業的感覚が求められる。
たとえば、地域経済開発などのマスタープランづくりでは、実業性を高めるために、各産業分野の企業家たちとともに計画立案を練る必要があろう。単なる学識経験者やODA専門家と言われる人たちの計画づくりだけでは、時に実業とのギャップを生み、計画の国際競争力を失うことにもなりかねない。
次世代プロフェッショナリズム
そう考えると、ODAベースに慣れきった開発コンサルタントは一刻も早く「虚業から実業へ」とコンサルティング能力を研磨していく必要がある。そのためにはコンサル側だけでなく、日頃、無償ベースの案件を発注しているJICA側も、実業への見方、考え方を学習しながら、案件発注に際しては調査の手続きなどのプロセス論だけにこだわることなく、調査の結果を鋭く査定する能力が求められる。
成果こそ終極の目的である。そうでないと、将来を担う若き開発コンサルタントたちもいつの間にか手続き上手になって、プロジェクトの本質を厳しく見定める眼力を曇らせていく恐れがある。コンサルタント業は、確かに一つには利益追求のビジネスである。しかし、それに専念しすぎると、本来求められているコンサルタントのプロフェッショナリズムを失っていく恐れがある。だから、調査プロジェクトを手がけるたびに職業的使命を確認し、改めてプロとしての職業的な誇りを持ち続けなければならない。
これからの新しいコンサルタント世代に対して、先輩たちが誇りを感じさせる行動をとらないと、若い世代の失望を買うことになりかねない。開発コンサルタントの世代交代が到来している時だけに、若者の目に開発コンサルタント分野が魅力ある職場として映らなければならない。意外に若い世代にはプロの道に徹しようとする人たちもいる。彼らには生きる誇りを感じさせる開発コンサルタント像が必要であろう。
発注する側も、発注される側も日本社会から希望の星として捉えられている開発コンサルティング業にプロとしての誇りを持てるよう配慮するよう熱望したい。コンサルタントの社会的地位の高まりが近くまで到来している時だけに、現状に対しあえて苦情を呈し、反省を求めるしだいである。
※国際開発ジャーナル2012年9月号掲載
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