ODAの現場を支える知恵集団 開発コンサルティング企業|羅針盤 主幹 荒木光弥

高い情報収集能力

今回は開発協力の現場で政府開発援助(ODA)事業を支える開発コンサルティング企業グループの役割を追跡してみたい。

まず、端的に言って、開発コンサルティング企業グループの存在なしでは国際協力機構(JICA)の仕事は一歩も動かないと言っても過言ではない。このグループはODAの現場を支える最大の専門家集団だと言える。

JICAと開発コンサルティング企業グループとの業務実施契約によると、特に「技術協力プロジェクト」「情報収集確認調査」「協力準備調査」「事後評価」などが、開発コンサルティング企業にとって重要な仕事になっている。中でも、開発協力に関する「情報収集確認調査」は、最も重要な仕事だと言える。

その昔、この情報収集確認調査に関しては、特に円借款協力を中心に商社マンがビジネスライクに自社のネットワークで援助プロジェクトを発掘し、その収益性を確認して、借款契約にまで持ち込んで自分たちのビジネスにしていた。もっと言えば、ビジネス的視点から援助プロジェクトの可能性が確認されていたのである。

しかし、そのうち民間ベースのプロジェクト発掘が時に現地政権との癒着を生みだすことになり、その結果、全て日本政府と民間との契約ベースで、オープンな形にして援助案件を発掘形成していくという経緯を経て、今日のように、全て日本政府との契約ベースでODA事業が実施されるようになった。現在、その重要な役割を背負っているのが「開発コンサルティング・グループ」であると言える。

そこで、JICAと開発コンサルティング・グループとの業務実施契約を年度ごとに追ってみると、その実績は次のようになる。2016年398件、2017年336件、2018年257件、2019年254件、2020年407件、2021年370件。ところが2022年には225件というように、大きな落ち込みを見せている。ただ、この中には政治的案件とも言える大規模なインド高速鉄道、さらにフィリピン鉄道、ミャンマーのマンダレー鉄道などは除かれているようである。余計なことを言うようだが、政治的な案件は通常のビジネス規範を崩すことが多々あって、正常なビジネス環境を狂わすことになると言うことで、国際的にはあまり歓迎されるものではない。

欧米では高い評価のコンサル業

以上がJICAと開発コンサルティング企業との契約実態であるが、懸念すべきこととして、2020年度は重視すべき技術協力プロジェクトをはじめ、援助案件づくりにつながる情報収集確認調査、協力準備調査などが大きく後退していることである。これは、JICA自身の5カ年計画の中での一つの調整かもしれないが、今後、その動向がどうなるのか。それは、日本の途上国援助の流れに一つのタイムラグを生じさせるだけでなく、実際にはODAを支える開発コンサルティング企業の経営にも直結するだけに、今後も経営動向が懸念される。

そう述べると、中には「ODAの仕事はコンサルティング企業を食わせるために存在しているのではない」と反発する向きもあるかもしれない。しかし、実際には、開発コンサルタントが健全でないと、ODAの実務は計画的に進まないのも事実である。日本では、コンサルティングという職業の歴史は浅い。他方、欧米では、なくてはならない職業として、すでに重要な社会的存在になっている。筆者は30年ほど前にワシントンで米国国際開発庁(USAID)を取材した時に、USAIDの紹介で多くの援助関連のコンサルティング企業トップと会ったが、理路整然と米国の援助事業の手順を説明してくれた。USAIDの職員が筆者に「彼らに会うと、米国の援助のすべてがわかる」と語っていたが、まさにその通りであった。米国では、コンサルティング企業がいかに重要なポストであるかが歴然としている。しかも、完全に社会に根付いているのである。卑近な例であるが、筆者の友人がワシントンに事務所を開設した時には事務所づくりの全てを、机や椅子の調達まで専門のコンサルタントが仕切っていた。

このように、外国ではすべからく大なり小なり一つの専門性の高い職業であり、一般社会の中で必要な存在として大きな役割を果しているのである。

聞こえてくる現場の声

それでは、再びわが国の援助現場に戻ってみよう。コンサルティング・グループからも、いろいろな声が聞こえてくる。その1「援助案件のストックが減少しているにもかかわらず、案件形成に前向きにならないJICA現地事務所が目立っている。これでは援助案件が後退してしまう。もし人手不足ならば、開発コンサルタントの経験や情報を現地で活用することを検討すべきではないだろうか」。その2「誰がどういう方法で案件づくりをしているのか、その実態が見えてこない。全て相手からの要請だけに従っているのだろうか」。

その3「JICA現地事務所が事務的に多忙を極めていることは承知しているが、それでは現地政府との人脈形成などが希薄になってしまうのではないか」との懸念。その4「国造りの基本とも言うべき“マスタープラン”づくり協力に消極的なJICA職員が目立っている。早期決戦なのに、時間をかけて援助構想などを検討する時間などないと反発しがちである。そうした声は、円借款協力に多く聞けるという。周知のように、マスタープランは長期計画である。

その大きな計画の中から時代の要請に応じて次々と計画化していくならば、長い目で見て、マスタープランづくりは合理的だ」と言う声もある。「バラバラに貸し付けだけに奔走していては、協力の全体像の見えない、刹那的な援助で終わってしまう恐れがある」という声も聞ける。以上が筆者に寄せられた関係者からの主な声である。開発コンサルタントには、長年の経験を通して、国際協力への見識も高まっている。だから、JICA関係者は時に契約者側の立場を離れて、現場第一線のコンサルティング企業者の経験や考え方をじっくり聞く機会をつくり、それをJICA事業に反映させることも大切ではないだろうか。それが正真正銘の官民連携ではないかと言いたい。

※国際開発ジャーナル2023年7月号掲載

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