マスタープランづくり協力がインフラ輸出戦略に有効か|羅針盤 主幹 荒木光弥

JICAの歪な予算構成

インフラ輸出戦略は日本の経済成長を支えるものとして、政府の大きな政策課題になっている。ところが、主な輸出対象国が開発途上国であることから、政府開発援助(ODA)部門への期待度が一段と高まる。

首脳外交によるインドの鉄道部門への1兆5,000億円の円借款コミットがその良い例である。

そうした背景の中で、国際協力機構(JICA)の所管する円借款部門への予算配分が異常なほどに膨れ上がる。そこで今回はインフラ輸出におけるODAの戦略的なあり方を考えてみたい。

周知のことと思うが、JICAには創設以来、税金に依存する一般会計予算の技術協力、無償資金協力と、8年前の統合の結果、国の財投資金などに支えられた有償の円借款協力という二つの援助形態が共存している。

一見して、技術部門と金融部門という異なる部門が同居しているようであるが、経済社会インフラがいまだ発展途上にある開発途上国の国造りという視点から見ると、たとえば、技術協力部門では開発途上国の開発計画を立案策定することを助け、金融部門ではその開発計画を実現するための開発資金を提供する、という二つの援助機能が働く。まさに理想の援助スタイルに見える。

これまでの経過を見ると、8年前に資金協力の円借款部門は(株)国際協力銀行(JBIC)から分離されて技術協力集団のJICAに統合された。多くの人びとは技術と資金の統合効果ということで、ODAに明るい未来を描いた。

ところが、8年を経てもその統合効果はかんばしくない。一つは円借款部門の予算がウナギ登りに増大するのに反して、技術協力部門の予算は税金依存の一般会計予算のために、その伸び率が停滞しているからである。

他方、円借款予算はインフラ輸出への貢献度が期待されて年々増えていく。このままの事態が進展すると、現在のJICAの予算構造を示す「8:1:1」比率が「9:0.5:0.5」になる可能性が強まる。「8:1:1」とは、円借款予算が全体の80%を占め、残り10%が技術協力と無償資金協力という意味である。これが、政府のインフラ輸出政策にもとづいて円借款の比重が大きくなるにつれて、これまでの予算規模の80%の比率が90%へと膨張していく。

その結果、予算比率という面で技術協力も無償資金協力も現状の半分=0.5になるという計算が予見される。まるで、海外資金協力機構に変身したように映る。このアンバランスはゆくゆくは援助機能や組織の衰退につながるのではないかと見られても不思議ではない。

開発計画づくりへのシフト

こうしたアンバランスを是正するためには一つの考え方であるが、国策のインフラ輸出を支援する円借款予算の増大に見合う形で、技術協力の一環としての、開発途上国の経済・社会開発のための計画立案、計画作成に大きく寄与できる総合開発計画(マスタープラン)づくり協力への開発調査予算を円借款の増額にスライドさせる形で増やしていく必要がある。ここではそのことを提案したい。

そこで、開発プロジェクトがどういう経緯で形成され、国際入札になるかという流れを河の流れで説明してみたい。河の流れは3つに分かれている。つまり、上流(Upstream)、中流(Middlestream)、下流(Downstream)である。

上流は「開発政策立案」の領域である。ただ、さらなる上位には国家の長期経済・社会開発計画(たとえば5カ年計画とか10カ年計画)があって、それが具体化されて、上流のいろいろな開発政策が生まれていく。それらは地域別、分野別、産業別の開発政策や課題別の環境政策、洪水対策、地震対策なども挙げることができる。

さて次は、中流での役割であるが、ここでは上流政策に基づく開発計画を具体的に立案作成することになる。そこで登場するのが、日本の得意とする総合開発計画(マスタープラン)づくり要請である。その担い手は開発コンサルタントであるが、マスタープランづくりは日本の伝統的なお家芸でもある。

その歴史は古い。戦前の南満州開発時代にさかのぼる。たとえば、後藤新平・満鉄総裁、さらに台湾総督時代の鉄道・道路・港湾など、インフラ整備事業の歴史は今でも知られている。

最後の下流は終着点とも言える実施の段階に入る。それは開発プロジェクトの国際入札にあたる。この時、初めて開発プロジェクトが世に姿を現す。それこそ日本の目指すインフラ輸出戦略の対象案件である。そして、その国際競争をどう勝ち抜くかが大きな課題になる。特に、現在の日本では、インフラ輸出は政治的使命を帯びている。だから、その勝敗をめぐっての追求も厳しい。

相手の人材育成がカギ

しかし、こうした下流での勝敗は中流でのODAベースの戦略展開にかかっている。それは端的に言って、先に述べた開発コンサルタントによるマスタープランづくりを戦略的にどう進めるかが重要である。

その戦略展開の一つは、マスタープランづくりの過程で相手国の開発計画づくり人脈を形成するために、相手国と一緒にマスタープランづくりを進めながら開発途上国での“国家計画づくり人脈”を築き上げることである。こうした努力の積み重ねが将来にわたって、日本のインフラ部門における国際競争力を高める大きな一因になり得る。

特に、ODAベースのマスタープランづくりは、初めから日本の国益というより相手国の政策的な要請にもとづくものであるから、相手国の信頼度も高まる。それゆえに、マスタープランづくりを担当する開発コンサルタントへの信頼度も高くなる。そうした中で相手国とのマスタープランづくりの師弟関係が築かれていく。

こうした環境を開発コンサルタントたちがつくることが、長い目で見て、日本の質の高いインフラ輸出へ誘導できる。そういう思いを込めて、戦略的にもマスタープランづくり協力を積極的に推進するODA予算配分を増やすことを提唱したい。それはまた、先に述べたJICAの円借款協力と技術協力の予算配分のアンバランスを是正する一助にもなろう。

※国際開発ジャーナル2016年10月号掲載

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