酪農家の技術強化と生計向上を目指して
普及人材育成と官民連携の強化で持続的な成長を支援
スリランカ北部州は国内有数の乳牛頭数を擁していながら、長年続いた紛争の影響で農家の技術レベルが低く、その潜在能力が発揮されていないという課題があった。2019年から開始した本プロジェクトは、現地に適した酪農技術の普及を目指し、技術マニュアルの開発や普及員の能力向上、新技術の実証、農家研修会の開催などを行った。
しかし事業開始直後から、現地の治安悪化やコロナ禍、経済危機、サイクロン被害などが次々と発生し、現場活動には大きな制約がかかった。関係者と協議を重ね、さまざまな困難に対して柔軟な対応で乗り越えた。活動において特に力を入れたのは、飼料供給体制と乳衛生の強化である。経済危機や物価高騰に伴う飼料不足に対し、自給飼料栽培やサイレージ(発酵させた家畜用飼料)流通を支援し、酪農セクターのレジリエンス強化を図った。また、乳衛生改善に必要な対策を提言し、中央政府による衛生基準の策定につなげることができた。
私たちが現場で大切にしていることは、「現地主導」と「持続性」である。技術や制度は、プロジェクト終了後も現地の人々の力で継続・発展されるものでなければならない。そのため、彼らが持続的に活動できるような仕組みづくりを行っている。また、行政機関と民間企業の橋渡し役としてワークショップを開催するなど、両者の連携強化にも努めている。
北部州の酪農セクターは、外的リスクに強い持続可能な発展を遂げつつある。ここで得られた経験と知見が、今後スリランカ全土、ひいては各国で実施される酪農プロジェクトで活用され、酪農産業の発展に貢献できることを願っている。
プロジェクトギャラリー
- 研修会でサイレージ作りをデモンストレーション する普及員と酪農家
- 農家の多くは手で搾乳し ている
- 牛はヒンズー教では神聖な動物で、年に 一度、牛に感謝する祭が行われる
プロジェクト担当者
株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル
前田 康之さん(まえだ・やすゆき)
大学・大学院で畜産学を専攻後、県職員として改良普及や試験研究に従事。世界の畜産業を知るため、国際協力機構(JICA)ジュニア専門員を経て、長期専門家として家畜衛生の技術協力プロジェクトに参加。その後、開発コンサルタントとして、各国の畜産開発案件に携わっている。
※国際開発ジャーナル2025年5月号掲載