ミャンマーとアフリカ 隠然たる力をもつ旧宗主国|羅針盤 主幹 荒木光弥

似た者同士の国々

周知のように、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で唯一の軍政国家ミャンマーが、ASEANの将来に暗い影を落としている。筆者はある日、ASEANの中でミャンマーの一人当たりの国民総所得水準がどのくらいになるのかを調べているうちに、地球上で最後の援助される地域となるアフリカへ関心が移ってしまった。そこで、今回はASEANと比較する形で、アフリカの国々の所得水準に焦点を当てることにした。

ASEANの中でミャンマーの一人当たりの国民総所得水準(2020年ベース)は、1,340ドルである。これは言うまでもなく、ASEANの中で最低のレベルである。ASEANの中で桁外れの高所得国は、周知のようにシンガポール(55,010ドル)とブルネイ(31,510ドル)である。次いでマレーシア(10,570ドル)、タイ(7,070ドル)、インドネシア(3,870ドル)、フィリピン(3,430ドル)、ベトナム(3,390ドル)、ラオス(2,409ドル)、カンボジア(1,510ドル)というランキングになっている。専門家筋の指摘によると、ミャンマーが国の潜在力から見て、ASEANの中で最低のレベルに陥っていることを残念がる向きが圧倒的に多い。それだけに、一刻も早い民政への移管が待たれるところである。

次に、話題をアフリカに移して一人当たり国民総所得がミャンマー(1,340ドル)と同じような水準の国を選んでみた。一人当たりの国民総所得から見て、南スーダン(1,367ドル)がアフリカの中でミャンマー水準に一番近い国である。その他では、コモロ連合(1,410ドル)、カメルーン(1,520ドル)、セネガル(1,430ドル)、低めに見てベナン(1,280ドル)、レソト王国(1,210ドル)などがあげられる。南スーダンという国は、人口が1,074万人で、アフリカ中央部に位置し、西に中央アフリカ共和国、南にコンゴ民主共和国、ウガンダ、ケニア、東にエチオピアと国境を接している。

南スーダンというお国柄

その歴史を見ると毎度のことながら、英国が1877年に占領。英国とエジプト傀儡政権による共同統治が始まった。その後、南北スーダンが合併したものの、内戦が続発している。その死亡数は200万人とも言われている。紆余曲折を経て、2020年に新国民統一暫定政権が生まれている。しかし、2021年の時点で周辺国へ逃れた難民は229万人に達し、国内避難民は160万人と見られている。たぶん、その一部は地中海経由でヨーロッパへ逃避していると見られる。

その経済状況は、石油産出国なので、安定した政権が確立されれば、成長する国になるはずであるが、長く続いた内戦で石油減産が続き、成長率はマイナスへと落ち込んでいる。本来ならば、豊かな石油産出国になっているはずである。専門家筋によると、石油資源の争奪戦で政治が乱れて、資源の有効活用の道を閉ざして、国を貧乏にしていると言われている。旧宗主国は英国。奇しくも英国はミャンマーの旧宗主国。搾取するだけ搾取して、後は野となれ山となれで放置されている。国民の疲弊度は、南スーダンもミャンマーも同じではないかと思われる。

ちなみに、南スーダンの人口は約1,074万人。ミャンマーは約5倍の5,379万人だ。生存の快適さからはミャンマーのほうが南スーダンを上回っていると見られるが、精神的な満足度からは、必ずしもミャンマーが南スーダンを上回っているとは言い難い。精神的な不自由さは、時に衣食住の難儀を上回ることがあるからだ。ミャンマーの軍事政権は早期に民政移管すべきであろう。ミャンマーの軍事政権は、共存共栄を目指すASEANの将来にも暗い影を落としているからだ。

一人当たりの国民総所得で見ると、南スーダンの1,367ドルに対して、ミャンマーは1,340ドルと似たり寄ったりであるが、政治的安定度、精神的な安心度から見ると、今のミャンマーが南スーダンを上回っているとは言えない。人びとの自由度、政治の自由度から見ると、必ずしもミャンマーが南スーダンを凌駕しているとは言えない。人間社会の不自由さは、精神的な疲弊を招いて、最後には社会の停滞を呼び込んでしまうものである。今のミャンマーは人間本来のハピネス感を失っていると言える。

今も根をはる旧宗主国

次に、アフリカの植民地史に焦点を当てたい。国民所得という面からベスト10という形で英仏の植民地史を眺めてみると、年間所得の高い順から次のようになる。
①セーシェル(13,770ドル)仏植民地
②ガボン(7,030)仏
③ボツワナ(6,500)英植民地
④南アフリカ(6,010)英
⑤赤道ギニア(5,800)仏
⑥ナミビア(4,550)独植民地
⑦エスワティニ王国(3,390)
⑧コンゴ民主共和国(1,800)仏
⑨モーリタニア(1,670)仏
⑩南スーダン(1,367)英
ベスト10の植民地割合は、フランスが5カ国、英国が4カ国とほぼ互角である。言い換えると、フランスと英国がアフリカの植民地を分け合ってきたと言える。しかも、今でもそれなりに英国とフランスは利権を残している。

日本も最近では“最後に援助される国”と言って、アフリカへの援助(ODA)を唱えているが、一つ皮肉を言うと、その利益は巡り巡って意外や旧植民地国の英国やフランスに落ちるのではないか、と疑われている。特に、日本はインフラ援助を重視するので、アフリカで安定的な収益を上げている旧植民地経営国の英国やフランスへの恩恵は大きいと言える。

皮肉を込めて、こう述べてくると、日本の対アフリカ援助が気にかかる。少なくとも、英仏のアフリカでの権益をにらみながら、アフリカ諸国と互恵の形で日本のODAを推進する心構えが必要であろう。

さらに加えて、中国、ロシアなどの戦略的な援助にも配慮しなければならない。中国の場合、国民の気を引く、公共性の高いスポーツ競技場や大型の劇場をはじめ、病院、ハイウェイ建設などに照準を合わせてくる。これらは、旧宗主国にとって、最大の弱点でもある。

とにかく、アフリカでは国の大小にかかわらず、国連の場で一票の投票権を50票以上も持っている。国連を動かすには、この50票以上の投票権が必要である。特に、中国は第三世界側に立つチャンピオンと称して、アフリカの大きな投票力を狙っている。中国は戦略的にもアフリカの力(国連の投票権)が必要なのである。今回は夏の夜の夢物語を綴ってみた。

※国際開発ジャーナル2023年11月号掲載

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