貴重な外貨収入源
今月のテーマは途上国の「観光開発と政府開発援助(ODA)」である。“売り物”の少ない開発途上国にとって、観光による外貨収入は非常に貴重だ。一番良い例がエジプトである。先祖の残した巨大ピラミッド群が観光事業という形で貴重な外貨を稼いでいる。アジアでも、カンボジアのアンコールワット、インドネシアのボロブドゥール遺跡群、あるいは中国の万里の長城などの歴史遺産は同時に観光資源でもある。日本では言うまでもなく京都、奈良が歴史遺産都市として世界に知られ、大きな国家収入源にもなっている。
国際的な観光事業は、どの国にとっても外資収入源として貴重な存在である。ところが歴史的遺産の少ない国々もある。その典型が太平洋島嶼国だ。一方、こうした国々には代わりとなる観光資源として美しい島々と海が挙げられる。美しい海を守ることが、島々の生きる道なのだ。同時に地球環境を守るという意味で、国際公共財的な意味も有している。それは、日本と太平洋島嶼国とが3年に一度開催する「太平洋・島サミット(PALM)」でも強調されている。島々にとって大きなテーマである「開発と環境の両立」は、日本が太平洋島嶼国を援助する時にも直面する問題でもある。筆者は過去にそうした課題を巡る試行錯誤をパラオで2回見てきた。
パラオでの経験
パラオは、フィリピンの東、カロリン諸島の西端に位置する。約500の島々で構成されており、主な島はバベルダオブ、コロール、ペリリューだ。人口は1万8,000人ほどとされている。首都はマルキョク。宗教はキリスト教。一人当たり国民所得は1,100ドル以上だ。グアムを除くサイパン、テニアン、ロタなど北マリアナ諸島の国民所得は2,300ドルほどと言うから、その差は大きい。
さらに、パラオの憲法に非核条項が盛り込まれている。これは世界的に注目されている。米国の核実験などが大きな刺激になっているという人もいる。
筆者の公的なパラオへの第1回訪問は1996年6月である。日本政府のプロジェクト形成調査団に同行し、取材をした。調査団は、アジア・太平洋地域におけるサンゴ礁研究の拠点として、パラオに研究センターを設置することを目指したものだ。それは日米イニシアティブによる地球的展望に立った協力のための共通課題(コモン・アジェンダ)の一環であった。
当時、サンゴ礁保護は環境問題のニューフェイスとして、1994年5月の日米次官級会合で追加された。そして、1995年の「国際サンゴ礁イニシアティブ」により、サンゴ礁研究センターの設置が検討されることになった。筆者の参加したミッションは、その計画を進めることにあった。
パラオでは、当時のクニオ・ナカムラ大統領ともお会いした。ナカムラ大統領は、日本からの調査団を大歓迎してくれた。サンゴ礁研究センターの計画は、パラオの海洋研究資源として高く評価されていたのである。そして、研究センターの一部が水族館として一般公開されれば、パラオの観光資源になると大統領は期待した。
ゴミ処理問題にODAで対応
2回目のパラオ訪問は2018年1月だった。日本ODAによる「ゴミ処理」協力を視察した際だ。太平洋島嶼国のゴミ処理問題は太平洋の環境汚染に直結するだけに、極めて深刻な問題になっている。太平洋の環境汚染は、ゴミ処理問題をいかに解決するかにかかっていると言われている。
このパラオ訪問では、福岡式と呼ばれる「準好気性衛生埋立て」を導入して、低コストで悪臭や虫の発生をおさえながら、微生物の分解を早めて、ゴミの減量化を目指す現場に立ち会った。これは国際協力機構(JICA)が2005~08年に実施した「廃棄物管理改善プロジェクト」で導入したものだ。ゴミ処理協力はゴミの捨て場所が拡大しないことや、悪臭が広がらないこと、衛生的であることなどが特徴としてあげられる。
島嶼国家にとって、ゴミ捨て場を広げられないことが最大の課題だ。筆者の見学したパラオのゴミ処理現場は、プラスチック類を分解して油を抽出する機能も備えていた。これこそゴミの再利用である。この装置は1kgのプラスチックから1リットル(約0.8kg)の油を抽出する(油化率80%)。油はそのままボイラーなどの燃料や軽油の増量剤として利用できる他、専用発電機で電気に変換することができる。まさに小さな島の循環型社会に向けての廃棄物管理分野の協力と言える。
とにかく、パラオの一般廃棄物の総廃棄排出量は、たとえば2004年ベースによると、年間約6,500トン、うちプラスチックゴミは約3分の1の2,000トンにのぼると推定されている。それだけのプラスチックが海洋に流出したら、どういうことになるか。海洋環境、海洋生物、魚類への悪影響は測り知れないものとなろう。これ一つを注目するだけでも、海洋環境に関する国際協力は高く評価されるべきだと言いたい。こうした努力が、島と海洋環境の良き循環に貢献することにもなる。
JICAはパラオだけではなく、島嶼国の廃棄物管理改善を支援するプロジェクトを2011年から大洋州11カ国で展開してきた。技術協力「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト(J-PRISM)」だ。
ゴミを減らし(Reduce)、使えるものは繰り返し使い(Reuse)、資源として再利用する(Recycle)というサイクル(循環)構築を支援するもので、大きな成果を上げている。JICA事業の中で特筆すべき成果だと言っても過言ではない。2017年から展開されたフェーズ2では、パラオを含む同地域の9カ国において、さらなる廃棄物管理体制の強化に取り組み、2022年2月に完了した。
筆者はパラオの現場で、山積みの金属類ゴミと、それを買い取る台湾船籍の貨物船なども見た。ゴミ分類、処理、再利用、そして金属類については輸出というトータルシステムが一応できあがっているのだ。筆者はJICAの国際協力にクレームをつけることが多いが、太平洋島嶼国家への廃棄物管理改善プロジェクトには喝采を送りたい。
※国際開発ジャーナル2022年12月号掲載
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