官民連携の新たな進化 中小企業海外展開支援|羅針盤 主幹 荒木光弥

試行錯誤の3年

新しい開発協力の実施思想は「連携」である。これは、去る2月に閣議決定された第3回「開発協力大綱」に明記されている。

そこで、唯一の実施機関である国際協力機構(JICA)は、これにどう組織対応しているのか、衆目の集まるところである。

JICAでは、すでに連携事業を進めている。たとえば、自治体(北九州市)との連携事業などが挙げられるが、制度的には企業との連携による海外投融資、BOPビジネス、インフラ面でのPPP(官民連携)事業、さらには中小企業海外展開支援を実施している。

そこで今回は、試行錯誤の3年を経て一定の成果を出し始めている中小企業海外展開支援を追ってみたい。

3年の実績を見ると、総計1,268件(社)の応募の中から269件が採択され、うちビジネス展開にまでこぎつけたものは39件に達する。その内訳は、(1)わが国の中小企業製品の新しい取引先が確保されたものが21件、(2)現地法人事務所の開設が13件、(3)現地で生産開始したものが5件である。

ところが、こうした中小企業海外展開支援は安倍政権の地方創生政策にくみするもので、「政府開発援助(ODA)の本道から逸脱しているのではないか」と疑問を呈する人もいる。それによると、「援助の基本としての相手国の要請(ニーズ)に基づいていない」と言う。

確かに要請(ニーズ)は援助の基本であるが、中小企業海外展開支援は“官民連携モデル”であって、ODAベースの海外投融資、インフラPPP、BOPビジネス支援などと同じように民間企業の新たな海外展開をサポートするものである。

ただし、最後は企業自身がリスクを負わなければならない。ODA資金による海外展開調査などは企業の海外展開を支援するもので、貿易取引、投資活動などは企業のリスクの下で展開されるものである。

ただ、中小企業は一般的にアジア、アフリカなどの開発途上国との関係が薄く、市場調査、投資前調査などに不慣れなケースが多い。

そこで、ODAベースの開発途上国調査に精通している開発コンサルタントが中小企業の海外市場、投資前調査などを手伝う仕組みをつくって対応している。最初はODAも知らない企業が多かったので、開発コンサルタントの存在さえ知らなかった。暗中模索のような日々が続いたと言う。

決め手は「開発課題」

中小企業海外展開支援と言えば、これまで経済産業省、日本貿易振興機構(ジェトロ)、中小企業庁などが主役を務めた。

たとえば、ジェトロは第6回アフリカ開発会議の後、日本とアフリカとの貿易関係の拡大を目指して、中小企業ベースによるアフリカ産品の開発輸入に向けての事前調査などに補助金を提供している。また、最近では、アフリカでの本邦企業のビジネス拠点、生産拠点づくり調査にも補助金を出している。

以上を総括すると、日本の中小企業海外展開支援でも、JICAベースとジェトロベースなどの二つの支援が存在している。では前者と後者はどう違うのだろうか。

その違いの最大の特徴は、JICAの中小企業海外展開支援には援助としての条件「開発課題」が付加されていることである。ジェトロの方はコマーシャルベースの支援であるから開発課題などの特別な条件はつかない。このように、中小企業支援でもジェトロとJICAには一定の役割分担が設けられている。

一般の中小企業にとってJICAベースの3,000万円、1億円という高額な海外展開支援金は極めて魅力的だ。しかし、よくJICA側の説明を聞かないと「開発課題」の解決に寄与できない分野は除外される。これは完全フリーのジェトロベースとまったく異なる。だから、最初の頃は「異次元の領域に迷い込んだようなものだ」と言う中小企業経営者が多かった。

それでもJICAが地方を行脚して説明会を繰り返しているうちに、省エネ、ゴミ処理などを含む環境関連、飲料水、保健衛生・医療、農業水産、教育の人材育成など公共性の高い分野が開発途上国における開発課題であることが少しずつ理解されるようになり、中小企業経営者の理解を得られるようになってきた。

新しい技術移転

開発途上国における中小企業の育成は、第1に雇用機会の拡大をもたらし、社会の安定にもつながる。第2に一国の産業発展に必要な基礎的な技術の基盤をつくり、産業発展を支える人材の涵養に役立つ。

たとえば、輸出産業を支える裾野産業育成の場合でも、中小企業の技術屋集団が存在するかしないかで、輸出産業の発展は大きく左右される。

今回、JICAは中小企業海外展開支援を担当することになったが、これは従来からの技術協力、技術移転協力というJICA本来の目的を一つの形にする絶好の機会ではないかと思う。技術協力はこれまで公共性の高い分野の技術が大半を占めたが、汎用性の高い民間の優れた技術は企業特許でもあり、高額のパテント料が伴うので、ODAベースでは資金面で企業技術のバラ買いもできない。

だから、一番良い方法は企業ごと開発協力に参加してもらい、開発課題の解決に一役買ってもらうことであろう。

その意味で、中小企業海外展開支援は結果として生きた技術協力も実現できる良い機会を提供していると言える。

筆者は、中小企業海外展開支援は「ODA連携の新しい進化現象」として捉えている。この支援事業は、わが国地方の活性化や国際化に役立つことは確かだが、それ以上に、アジア、アフリカの雇用効果の高い地元企業や産業社会の人材育成に貢献する意義を強調したい。

第3回の「開発協力大綱」では、ODAの一つの役割として「質の高い成長」を提唱しているが、地場産業の育成という意味でも中小企業群の成長を支援することは、開発途上国の現実にかなった開発協力である。

※国際開発ジャーナル2015年4月号掲載

Follow me!

コメント

PAGE TOP