懸念されるインフラ輸出戦略 アジア連携型インフラ戦線のすすめ|羅針盤 主幹 荒木光弥

不人気のSTEP円借款

アジア開発銀行(ADB)の試算によれば、今後10年で8兆ドルというアジアの巨大なインフラ需要が見込まれている。目下、話題沸騰の中国提唱によるアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、そのインフラ需要を見込んだものである。

日本では、すでに安倍内閣の下で組織された「インフラ戦略会議」(閣僚級の参加による)が、インフラ輸出戦略の司令塔としての役割を果たしている。その成果としては、本邦企業のインフラ受注はこれまでの3倍増を達成。

それでもまだ取りこぼしが多く、楽観できない状況だと見られている。開発途上国での大型インフラ建設は、先のADB予測通りアジアに集中する傾向にある。ところが、アジア地域は教育水準の向上に伴って民主化の熟度も高まり、ワイロ・チェックも含めて公共投資への国民の関心も高く、国会も国民の声を反映させるべく公共投資の動向を監視している。こうした中で、公共投資に関するコスト意識も高まり始めている。

だから、そうした環境下での国際入札は日毎に厳しさを増すばかりだという。中でも日本の応札に関しては、当初のファイナンスコスト(円借款など)が安くても、本邦企業による完成プロジェクトはかなりの割高になっている、という風評が広まり、本邦企業を忌避するケースが増えているとの懸念が高まっている。

最近では、グラント(無償)援助を供与したにもかかわらず、その後の建設コストを計算すると、他の先進国の方が有利だとの不満も聞こえてくる。さらに、円借款における本邦企業の落札率を高めようと始まったタイド強化の本邦技術活用の円借款(STEP)も開発途上国に割高感を与えている。

最近では、円借款に慣れ親しんでいるはずのベトナムさえも、ホーチミンでの病院建設でSTEPを要求すると、「高くつく」と言って拒絶反応を示した。彼らはアンタイド(一般公開入札)を原則とする円借款を望んでいるのである。その後の交渉で、かろうじてSTEP案件化にこぎつけたものの、タイドは高くつくというイメージが広がっているようでもある。これも、国民のコスト意識とともにワイロ監視の高まりを反映したものであろう。

また、インドも円借款STEPを拒絶する傾向にある。インドでは返済の長期、低金利よりもプロジェクト価格そのものを重視しているという。このように、日本に好意を抱いている国々でも、ファイナンス・コストの問題よりもプロジェクトそのものの価格を問題にしている。

プロジェクトコストの競争力

日本は「安全」や「ライフサイクルコスト」などを日本の優位性として訴え、国際競争力を高めようとしているが、こうした考え方が果たして国際競争力強化の神通力になるのか、もっと選択幅を広げて新たな戦略を模索すべきではないだろうか。新興国の進出もあって、良い技術、良い設計プランだから高くて当たり前という考え方が通じる国際環境にない。それは、技術の市場性というか、技術やプランの相対的価値にも目配りすることが求められているとも言える。

日本は安全性とライフサイクルコストの優位性を日本の国際競争力の強化につなげようとしているが、もっと多様性を持たせた国際戦略を立てないと、多様な国の、多様なインフラプロジェクトに効率的、効果的に対応できなくなるのではないだろうか。

たとえば、開発途上国での橋梁建設の国際入札に際して、日本は橋梁の100年のライフサイクルを考えて、その建設コストを100億円で計上するとする。日本の技術、設計は100年にも耐えられるものであるから、建設コストは100億円が妥当だと胸を張る。

ところが、相手は「いや、橋の耐久寿命は50年でも結構です。だから、半分の50億円ぐらいで建設してほしい。もし、そうしてもらえれば、残り50億円は他に有効に利用できるのです」と訴える。プロジェクトのライフサイクルコスト意識よりも、資金の他への有効活用が先行しているようである。韓国や中国はその間隙を縫って日本を出し抜こうとする。

万能でないオールジャパン

このところ、新興国のプラントやインフラ輸出も盛んになり、それなりの実績を積んでいる。最初は「安かろう、悪かろう」から始まったが、そのうち技術力を高めて「意外や使えるではないか」という評価も出てきて、徐々に日本を圧迫するようになってきた。

インフラ建設は労働力依存のところが大きいので、彼らの価格競争力は高い。これは余談だが、日本の建設界は東日本の復興やオリンピックに向けての旺盛な内需に没頭しているうちに、アジアでの競争力を失うのではないかと懸念されている。

日本では、海外で争う時には、国威発揚型とも言える“オールジャパン”という合言葉が登場して、国際競争力の強化を目指す。これは政府主導の呼びかけである。政府はトップセールスをはじめ、民間が海外で有利に戦えるように施策し、民間はこれに乗って海外で戦う。しかし、最後の決め手は、民間の価格競争力である。ところが、こうした政府の護送船団的な支援が結果的に民間のモラルハザードを惹起させて、民間の創意工夫、リスク・テイクなどを阻害する恐れもある。

そう考えると、国際競争力を掲げたオールジャパンにも民間力を低下させる一つのトゲが存在することを認識しなければならない。

とにかく、日本としては最高級レベルへの技術イノベーションは怠らないとしても、国際競争の時は、その価格帯を国際的に戦える水準に再調整する工夫も必要になるのではないだろうか。

ケースによっては常にオールジャパンではなく、他の信頼すべき国と組んで国際競争力を高めることも視野に入れるべきであろう。安い労働力を有する有力な開発途上国との連携も一つの選択であろう。アジアなど開発途上国との連携では、政府開発援助(ODA)を通じて培った地盤がある。アジアとの国際連携型インフラ応札戦線を真剣に検討する時代が到来しているのではないだろうか。

(今回は財務省広報誌『ファイナンス』での筆者と神田眞人・財務省国際局総務課長との対談を参考にした)

※国際開発ジャーナル2015年6月号掲載

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