日本に求められる雇用の促進
第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)が8月下旬、ケニアの首都ナイロビで開催される。これまで開催期間が5年間隔であったが、今回のナイロビ会議からは3年ごとの交互開催となり、次回は東京で2019年に開かれる。
間隔短縮については、開発を早目にフォローして開発のスピードアップを促すという利点が考えられる。アフリカ開発協力の大きな特徴は官民連携(PPP)である。開発協力などでインフラ整備を進めるだけでなく、そこに、いかに多くの民間企業を誘致するかが開発の鍵を握っているのである。いくらインフラを建設しても、今のアフリカには自らの力でインフラを活用して、産業を興し企業を発展させる能力が不足している。
そこで、まずは外国企業を誘致して地元の雇用が拡大されると、それが人々の生活を向上させ、さらに政治や治安の安定へ結び付き、貧困から生まれるアフリカの過激主義の芽をつみ取ることも可能になる。
すべては生活の安定にかかっている。その良いモデルがインドネシアである。独立後の政治的混乱が貧困を増幅させ、共産主義的な革命思想が国中に広がり、国家の安定が損なわれた。
そこに現れたスハルト政権は軍事独裁政権、あるいは開発独裁と呼ばれたが、治安は軍、経済発展は優れたテクノクラートに任せて、国家の安定を優先させた。そうした中で日本など多くの外国企業を誘致して、雇用の拡大を図りながら経済発展を優先させた。生活が安定する中で人々は民主主義に開眼し、独裁体制を打破した。インドネシアは開発途上国の一つの成長モデルになっている。
軍事政権から民主化へ向かっているミャンマーも目下、外国企業の誘致で経済開発を進めて、民主的国家造りを目指している。これもインドネシアの発展モデルを参考にしているとも言われている。
アフリカでも民間の経済発展による国造りを目指しているように見える。ただ、アフリカの経済開発効果は、それぞれの国の規模が小さく人口も少ないので一つの経済市場として成り立たない。
3つの経済回廊を計画
そこで、日本は何カ国を包括するように、いくつかの経済回廊計画を官民連携の援助計画として立案している。今回のTICADⅥに向けては目下、東アフリカのケニア、タンザニアを含む「モンバサ・北部回廊」、モザンビークを中心にジンバブエ、ザンビア、マラウイを含む「ナカラ回廊」、コートジボアール、ガーナ、トーゴ、ブルキナファソを含みナイジェリアとリンクさせた「西アフリカ成長リンク」などが官民連携を可能にする有力候補になっている。
この3つの計画については戦略的マスタープラン(総合開発計画)が進行中で、開発の全体像が見えるところまできているという。
もう少し個々の特徴を追ってみよう。「モンバサ・北部回廊」は東アフリカの域内統合が進展すると加盟各国(エチオピア、ケニア、タンザニア)間の経済交流が活発になると見られている。その人口規模は約2億人で、農業の可能性も高く、企業のビジネスチャンスとしては港湾開発、軽工業、フードバリューチェーンなどが考えられている。
経団連が2014年にまとめた経団連参加企業の国別の関心分野によると、①物流インフラ(道路、鉄道―周辺国との連結、港湾、コンテナヤードなど)、②都市インフラ、③タンザニアでのガス田開発、LNGパイプライン、④ケニアでの製油所能力増強、⑤電力インフラ(地熱発電など)、⑥農業(ポストハーベスト技術を含む)、⑦ICT活用の治安維持、テロ対策などを挙げている。
「ナカラ回廊」も天然資源、農業の可能性も高く、日系企業が特別の関心を示す地域であり、なかでも港湾開発、資源開発などが有望視されている。経団連では「ナカラ回廊開発」について周辺の国々とリンクする道路・鉄道網、さらに港湾(コンテナヤード)、発電・送電網、石油精製プラント、オフショアガス田開発、LNG事業の展開、パイプライン、水利・かんがいなど農業インフラなどを関心分野としている。日本の経済界はアフリカの中でモザンビークに最大の関心を寄せている。
東京はアフリカを向いているか
「西アフリカ成長リンク」構想では、地域の統合で3億人市場が創出できるとしている。特に、沿岸の開発と内陸の連結が期待され、農業の可能性も一段と高まるとされている。政府開発援助(ODA)としては都市開発に注目し、保健・衛生協力を有望視している。経団連では西アフリカ圏として、まずアフリカ最大の人口を抱えるナイジェリア、そしてガーナ、セネガル、コートジボワールなどの経済的リンクを視野に入れているが、ナイジェリア市場の入らない経済圏構想などあり得ないとしている。
経団連傘下企業の主な狙い目としては、周辺国とのリンク、道路・鉄道網、港湾(コンテナヤード)、電力(ガス火力発電)、送電網、石油・ガス精製プラント、パイプライン、都市インフラ、農業インフラなどを挙げている。
しかし、いくら良い開発構想を描いてみても、先にも述べたように日本企業が現地進出しなければ援助構想も実現しないし、現地に雇用促進など開発効果も残せない。また、ODAベースで獲得しようとする多くのインフラ・プロジェクトでもタイド(ヒモ付き)工夫をいろいろ施したからといっても最終的には日本企業の意欲と高い国際競争力が求められる。
ところが、アフリカの現地からは「東京(大手企業)はアフリカを向いていない」というボヤキが聞こえてくる。特に、大手企業は、最近の石油をはじめとする資源価格の低迷で、企業リスクを回避しようとしているので、アフリカへの動きが鈍いと言われている。ただ、中堅企業は当面のリスクを覚悟しながら、有望市場のナイジェリアなどに進出し、将来への足場を固め始めているという。
経団連グループは、もっと長期的な経営戦略でアフリカ市場開拓を進めるべきではなかろうか。今のままでは、中国はおろか韓国にも後塵を拝することになりかねない。
※国際開発ジャーナル2016年7月号掲載
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